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場所は変わり、今は城の中。

広い部屋のまた段差のついた上には信玄。

その下の両脇には幸村と佐助。

そして信玄の目の前に座る秀晶は、いささか面倒な事になったと感じていた。


秀晶は馬鹿ではない、むしろ頭の良い方と言えるだろう。

それは先祖の所為なのか秀晶自身の実力なのかは分からないしどちらでも良い事だが、とりあえず人並みよりは優れていた。

初めてあの森に来た時は、白昼夢でも見ているのかと思っていた。

考えようと思ったがその後すぐ佐助に襲われ、平常心ではなくなった為気付くのが遅くなってしまった。


ここは元居た場所とは違う世界だと。


人は人を抱えてあんなに高く飛べないし、早く走れない。

馬鹿力も出ない。

武田信玄が生きている訳がない。

真田幸村が武田信玄と同じにいる訳がない。

猿飛佐助はいるかどうか分からない人物。


やはり名乗るべきではなかったかもしれないなぁ…。


と、ぼんやりのん気に思っていた秀晶だったが、少なくとも両脇にいる二人は未だにパニック状態なのには気付いていなかった。

佐助は「大将何か話してよ! 絶対今の状況楽しんでるでしょ!」とか思っているし。

幸村はそわそわそわそわ信玄の顔を見たり、秀晶の顔を見たり、佐助を見たりと忙しない。
信玄は佐助の思った通り楽しんでいた。


誰かが話を振らなければ延々と続くであろうこの時間を打ち切ったのは、さすがにそわそわし続けている幸村を哀れに思った信玄だった。


「秀晶……と言ったか、ぬしは」

「はい、言いましたねぇ」

「ふむ…」


秀晶の返事に、信玄は一度視線を逸らし顎を擦ると、また秀晶に視線を戻す。


「二十四代目とは、どういう意味か」


真っ直ぐに秀晶を見据え、問う。

ピンと張った空気に幸村は思わず背筋を伸ばし、佐助も少し息を詰まらせた。

天井裏に居る忍ですら、自分に向いている訳ではないと分かっているのに手足の動きが止まる。


「どういう意味と言われましても…、そのままの意味ですが」


そんな緊迫した空気の中で、花でも飛ばしそうなくらいあっさりと答えた秀晶に時も止まってしまった。


「私は二十四代目の明智家当主です。 ただ、どうやら私の居た“時”とこちらの“時”は違うようですが」


 


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