08



「…と、言うわけで。猿飛佐助、勝手ながら、怪しい男を大将の所に連れて来た所存です」

「うむ。 あい分かった」


昼下がりの太陽の下、城の入り口を少し入った辺りで自分の大将、武田信玄に頭を垂れる佐助。

それをいつもの赤い服を着込み、腕を組んで頷く信玄。


場所は変わり、躑躅ヶ崎に戻った佐助は先に飛ばした忍鳥にて知らせた報告を聞き、外で待っていた信玄を見つけると秀晶を先に下ろし、自分の口で詳しく報告した。


信玄は大して気にしたようでも無く、それを了承する。

というか、秀晶が気になって仕方ないようだ。


「して、佐助よ。 おぬしの言う怪しき男とは、壁を向いてうずくまって嘔吐しておる男か」

「はい、壁を向いてうずくまって嘔吐して…って、ちょっとぉぉおお!!?」


信玄の言葉を危うくそのままスルーしてしまう所だった佐助は、寸での所で気付いて秀晶の方に駆け寄る。

信玄の言う通り、秀晶は最初に下ろした所から数m離れた所の外壁の下で嘔吐していた。


「ちょっとアンタ大丈夫かよ!?」

「すいません…っ、凧に乗ってしばらくした頃に気持ち悪くなってしまったのですが…下ろして貰うのも迷惑かと思いまして…」

「なんでそこで遠慮しちゃうのアンタはさぁ! しないでよ! 言ってよ!!」


気持ち悪いのを必死に抑え、佐助の質問に答えようとする秀晶の顔は微笑んでいた。

死にそうな顔で。


頑張ってこらえる秀晶と、それをかいがいしく背中をさすり世話する佐助を見て微笑ましそうにする信玄。

そんな緩い空気が流れ、とてつもなく居心地というかなんというか、
「え、アレ明智だよね?」
「何やっちゃってんの長」
「何で微笑ましそうにしてんですか大将」
「何コレ、ヤダコレ」
状態の忍達の中に、これまた濃い人物が間もなく到着しようとしていた。


別の言い方をすれば、“マジで激突する5秒前”


 


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