07



「あぁ〜…、あのさ、行くとこ無いんなら俺様んとこ来ない?」

「はい?」


口を軽くタオル生地のハンカチで拭いていた秀晶は、その言葉に顔を向ける。

何の事だかさっぱり分からないようだ。


もちろん、佐助も何の考えも無しに言っている訳ではない。

この男が明智とはハッキリ言い切れないが、それなりに関係のある人物だろう。


本当に明智光秀本人だった場合、城内に入れるのは危険ではある。

だが捕らえる事が出来れば織田軍について情報が得られるだろうし、人質にも出来る。

本人で無かった場合にはそのまま捨てるか何かすれば良いし、この顔のそっくりさから言って親族の可能性も高いだろう。

着ている服も奇妙だ。


それにあの暑苦しい主の尊敬する、これまた暑苦しい大将。

甲斐の虎と有名な武田信玄ならば、この男が何者なのか分かるかもしれない。


「アンタ、何か困ってるみたいだしさ。 俺様の主だったら助けになるかもしんないし」


どう? 悪くないっしょ?

そう言って笑いかける佐助の顔は、既に忍の顔に戻っていた。


その言葉に動きを止め考え込んでいた秀晶だったが、確かにここがどこか分からないし、都合の良い事でもある。


「…そう…ですね。 ご迷惑おかけしますが、お言葉に甘える事にしましょうか」


秀晶は少々迷いながら口を開き、困ったように笑う。

その様子を見た佐助は上手くいったと心中で拳を握り、また秀晶に笑いかけた。


「了ー解っと! それじゃあ俺様に掴まって…」

「あ、少々お待ち下さい」


佐助の台詞を遮り、控えめに軽く手を上げる秀晶に、佐助は警戒されたかと若干動きが止まる。

…が


「もう少し休んでから出発してもらっても宜しいですかねぇ? 今出発すると吐きそうです」

「…はい」


また顔色を悪くさせた秀晶に、忍の顔が乱暴にベリベリッと剥がされた音が聞こえたと佐助は思った。


 


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