■ おなまえ

じぃちゃんと小太郎に挟まれ、しっかりがっつり熟睡した俺。
小太郎に起こされるまで横でどんなに騒がしくしても起きなかったらしいから、俺忍者なれないかも。
寝首かかれそう。

なんだか寝起きからしょぼんとしていれば、じぃちゃんに頬っぺたをめちゃくちゃに揉まれた。


「なんぢゃ、まだ寝ぼけておるのか才蔵」

「ううん、だいじょぶ」


にへらー、と笑って返せばフォッフォッと笑われた。
そして抱き上げられて布団から浮かび上がれば小太郎がテキパキと畳んで、廊下へと運び出していく。

小太郎やっぱ仕事早いなー、とか。
じぃちゃんのヒゲが地味に顔に当たってくすぐったいなー、とか。
そんなことをぽやぽや考えていながら足をブラつかせていたら、じぃちゃんに重くなったか? と抱え直される。

おっきくなってるのかなー、俺。
……贅肉じゃないことを祈ろう。
忍になるためには贅肉、ダメ、ぜったい。

そう思っていたのに、出された朝ご飯が美味しくてもりもり食べた俺です。
美味しいのがいけないんだ。


「お口には合いまするか?」


かふかふと残り少ないご飯をかき込んでいると、一番上品な女将さんっぽい人が話しかけてきてくれたので、一度小太郎の様子を見てから首を何度も縦に振った。
いや、俺なんかが口きいて良い人なのか分かんなかったし。


「すごくおいしい、ですっ」

「それはとても嬉しゅうございます。お名前、なんて?」

「ぇと、」


もう一度小太郎を見ると「大丈夫」とこっくり頷いたので、噛まないように頭で一度反芻してから口に出す。


「さいぞうって、いいます」

「才蔵…、才くんとお呼びしても構いませぬか?」

「だいじょぶ、です」


なでなでと撫でてくれるこの人の手は、かなり好きかもしれない。

なんていうか、小太郎もじぃちゃんも優しいから、二人に撫でられるのも大好きだけどこの人とはちょっと違う。
二人は守ってくれそうって感じなんだけど、この人は包み込んでくれそうな、あったかくて柔らかい雰囲気がする。
こういうのを母性っていうのかなと、考えた所で頭を止めた。

何だか泣きそうになったから。

黙って撫でられていた俺だが、そういえば名前をきいていないと気付き「あの」と声をかける。


「おなまえ、なん、ですか」

「私、黄梅院と申しまする。どうぞ梅とでもお呼びくださいまし」

「うめ……」


そこでちょっと俺は考えて。


「……うめちゃん?」


そう言っていいのかなと首を傾げれば、可愛い笑い皺が目元に浮かんだ。

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