■ 川の字で

旅館に戻った俺達は、まずあの女将さんのお出迎えを受ける。
部屋の仕度はすんでおりますゆえ、と部屋の襖を開けられてすぐに目に飛び込んできた光景に、俺とじぃちゃんはもちろん、小太郎までもが目をぱちくりさせていた。


「こりゃあ…」


綺麗に、ぴしっと並べられた三つの布団。
その光景を見て後ろに下がっていた女将さんをじぃちゃんと一緒に振り返れば、にこー! とした笑みが返ってきて、俺達もにこー! と笑みを返した。
小太郎はというと、文句ありげな顔でこっち見てました。
はい。


「こた、いっしょ?」


つんつんとじぃちゃんの袖を引っ張って再確認すると、「もちろんぢゃ!」と頷くじぃちゃん。


「風魔もここで共に眠るんぢゃ、一緒にのぅ」

「ほんと?」

「本当ぢゃとも。のぅ風魔!」

「………」

「こりゃ風魔! 聞いとるのか!!」

「……(フゥ〜」


返事はしないで、俺を抱っこして無でくりまわしてる小太郎。
近くに居た俺だから聞こえたのかもだけど、今ものすっごいため息はいたよね?

ごめんねー、でも何だかんだ一緒に寝てくれるんだよねー、そんなところが好き。

小太郎の首に抱き付いてきゅむきゅむと抱き締めれば、あらあらと女将さんが笑う。


「本当に、仲の良い父子の様でございまする」

「とすると、ワシらはさしずめ祖父母の位置かのぅ」

「そうでございましょうなぁ」


あ、こっちでは大人の会話。
相変わらずきゅむきゅむやってたんだけど、そろそろ本気で眠くなってきたなぁ。

くぁふ、と大あくびをすれば気付いたらしい小太郎がじぃちゃんに俺が眠そうということを伝えてる、みたい。
後ろでやってるから何やってるのか見えないや。

温泉の時よろしく、UFOキャッチャーみたいに布団のところで下ろされる。
明日の朝ごはんのリクエストは無いかと女将さんに聞かれて、なんとなく白い布団が目に入ったから豆腐と答えたら、じぃちゃんと女将さん揃って「渋いわぁ」と目を細められた。
いや、正直こだわりは無いんだよ、ただちょっと苦い野菜が苦手なだけで…。

眠さにしぱしぱと瞬きを繰り返してついに船を漕ぎそうになった頃合いで、女将さんはそれではと言って出ていった。
名前は何て言うんですかっていうのと、お礼言えなかったなぁ、なんて思いながら隣に居た小太郎の手を握る。
ちょっとびっくりしたらしい小太郎をひとまずそのままに、今度はじぃちゃんの手を握った。そして俺を真ん中にするように布団に寝転がる。

甘えていいって言ってくれてた気がするから、ちょっとくらい、良いよね。


二人と手を繋いだままニマニマ笑えば、笑ったじぃちゃんと相変わらず無表情の小太郎が参ったといった感じで隣に寝転がる。
うん、すごくいい、これ。


「おやすみ、なさい」

「うむ。おやすみ、才蔵」

「……」


小太郎はおやすみの代わりにぎゅっと手を握ってきたから、俺も握り返した。



おやすみなさい、よい夢を。



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