■ ありがと


「じちゃ、こた」


帰り道、行きと同じく小太郎の背中からじぃちゃんに声をかける。
前を向いたままじぃちゃんが「うん?」と返事を返してきて、それに少し間を置いてから再度口を開いた。


「ありがと」


そう言えば歩みを止めて、不思議そうな顔をして振り返るじぃちゃんと小太郎。
何が? って思ってるのがすっごい分かります。
でもごめん、今なら言える雰囲気だったから、今言うね。


「ちゃんと、おれい、ゆってなかったから」


拾ってくれたこととか、助けてくれたこととか。
そういう身体的な事柄だけじゃなくホントに、色んなことで救われてるから。

小太郎の背中でもじもじとしている俺を見て、あぁなるほど、と俺が言わんとする事を察したらしいじぃちゃんは「ふぅ」と軽いため息をついて、それからちょっと笑った。


「何を言うかと思えば…相変わらず難しい事ばかり考えるのぅ、才蔵は」

「……(コックリ」

「そんなもの当たり前ぢゃ! それどころか、礼を言うのはむしろこちらの方だというのに」


こっちにずんずん歩いて俺の顔に伸びてきた手に思わずびくりと震えてしまったが、予想外に触れた手はとても優しくて、無意識に閉じかけた目を見開いた。
じぃちゃんに目を合わせると、やっぱり手と同じくらい優しい目をしてる。


「礼を言うぞ、才蔵。おぬしが居るおかげで毎日退屈せん、こんな楽しい時を過ごすのは久方ぶりぢゃ」


ありがとう。

じぃちゃんにしてはとても優しい手つきで頭を撫でられて、そしてぴしっと軽くデコピンしてからまた前に向き直り歩き出す。
小太郎何も言わないけど、ふわりとひと風吹かせてからじぃちゃんに続いて歩き出した。

俺はというと、眠い目を小太郎の背中に擦りつけるフリをして勝手に出てきた水を拭いていた。



それから、ちょっと笑った。



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