■ 夜の散歩


「…蔵…、才蔵…」

「んー…?」

「起きんか才蔵!」

「ぅあい!」


びょん、とでも効果音のつきそうなくらいに跳ね起きると、待ってましたとばかりに小太郎にキャッチされた。
そして素早く着物を脱がされ、動きやすそうな物を着せられる。

寝起きで頭が上手く回らないうえ、いきなりのキャッチアンド着替えになすがままになっていた俺だったが、小太郎に小脇に抱えられ旅館の外に出るまでにはだいぶ意識がはっきりしてきた。

そういえばどっか行くとか言ってたっけね、なんて思いながら小太郎の背中におぶられ揺れる。
目の前の襟首にすん、と鼻をつけて嗅げば、忍ではなく人として過ごす時間が増えてしまったからだろうか、いつになく濃い小太郎の匂いがした。
まぁそれでも、充分薄い、人の匂いだけれど。

きゅうと首にしがみつきながら、じぃちゃん、と声をかける。


「どこいく、の?」

「ちょうど今の季節に見れるもんを見に行くんぢゃよ」

「……おばけ?」


そう言ったら、爆笑されました。
ちなみに小太郎も肩震えてます、笑ってるねコレ。
恥ずかしい。
子供の言う事なんだからそんなに笑わなくても良いじゃないですか…っ!

恥ずかしさに肩に顔を埋めて足をパタパタとさせると、宥めているのか制止しているのか、よいしょと背負い直されたあとにぐりぐりと頭に小太郎の横顔が押し付けられる。
すいません、大人しくします。
でも恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ、と言い返すように俺もむぎゅーッと頬っぺたをくっ付けて押した。


「…なんぢゃい、おぬしら。楽しそうにしおってからに」


お互い頬っぺたが寄って変な顔になっているのは分かっていたから、あえてそのままでにへらと笑った。
うん、楽しい、です。


ずんずん進み、昼間に引き続きまた森の中へと入る。
昼の少し整えられた道と違い、今回は完全な獣道だ。
それでも中へ迷わず進んで行くじぃちゃんに付いて行き、ガサガサと歩くこと三分。
前の方で水の流れる音が微かに聞こえ、同時に何かうっすら光る物が見える。


「なに?」


そう聞くが、じぃちゃんはニマニマと笑みを返すだけで答えてくれない。
小太郎もまたふるふると首を振って答えてくれず、首を傾げた。
 

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