■ おそろい
「仲がよろしいようで何よりでござりますが、いい加減、食して頂けなくては冷めまする」
クスクスと笑いを溢す女将さんに言われてしまって、そういやそうだと慌ててがっつく俺。
プラス、じぃちゃん。
ちなみに小太郎はいつの間にかほとんど食べてました、すげぇ。
「こりゃ風魔! また一人で先に食べよって!!」
「……」
前もあるんですね、じぃちゃん。
ずずず…と味噌汁を啜る小太郎を横目に、そういえば生き物って食べてる時が一番油断してるんだよね。
なんて思い出し、無防備な横っ腹を人差し指でズビシッとしてみたら、ちょっと咳き込む音がして、無言でやり返された。
でもね、俺の人差し指はもう小太郎の鋼の筋肉にダメージ受けてたんだよ。
そして普通に人差し指が刺さる俺の腹に、さらに精神的ダメージがっ!
とりあえず肥えなきゃ、と米を口の中に掻き込むけど所詮は口の大きさが子供サイズだから大して減らないっていうね。
美味しいから良いんです。
もっぎゅもっぎゅと食べていれば、横から伸びてきた手がある皿を指す。
そして俺は指されたそれを見て、うわぁと眉が下がった。
まぁ、うん、野菜…です。
「なんぢゃ才蔵、菜っ葉が全然減っとらんぞい」
「…にがい、から」
ふるふると首を振るも、いかんいかんとじぃちゃんも首を振る。
そりゃ野菜が大事なのは分かるけど、やっぱり苦手なのは苦手だよじぃちゃん。
「苦手でも頑張らん限り平気にはならんぞ? ほれ、一口食べてみんか」
「ぅ〜……」
箸で摘まんであーんとされるが、梃子でも開ける気がない俺。
「これを食べんと風魔みたいになれんぞ!」
だけど、小太郎みたいに、…なんて言葉でぎゅっと結んでた口を開けちゃう俺は単純なんですかね。
そして小太郎がぽむぽむと頭を撫でてくれれば、自分から食べる俺。
……うん、単純だね。
そんなこんなで野菜を早めに撃破した俺は、他の料理にも箸を伸ばす。
魚とか美味しいんだけど、たぶんこれ大人用のお膳だと思う。
量が多いし、箸が大きくて太い。
紅葉の手にはちょっとキツい、けど、ね。
「子供用の箸はないかのぅ?」
持ちづらそうにする俺に気付いたらしいじぃちゃんが、女将さんにそう言うけれど、俺は大丈夫と首を振る。
「みんな、いっしょ、おはし」
きゅむ、と箸を握って、自然とニヤける顔をそのままに言った。
「おそろい」
そう言ったら、ほんの少し間を置いて皆も笑ってくれたから、良かったと思います。
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