■ くすぐり

今度は“さいぞう”と書いた隣に“うじまさ”と書く。
そしてまた自分の名前の隣に“こたろう”と書けばぐしぐしと横に居た小太郎に頭を撫でられた。
顔がニヤける、どうしよう。

その後もつらつらと“まんじゅう”だとか“しのび”だとか書く俺だったが、書いていくうちに岩のほぼ全面が濡れて書く事が出来なくなった。
うーん…当たり前だけど、早く乾かないかな。
他の岩はあんまり平面じゃないし、なにより結構濡れちゃってるんだよね。

こう…ストーンって水が落ちてくれないかなぁ、なんて岩の真ん中を見つめていたのだが、その見つめていた所からじわりじわりと水が乾いていく。
いや、どちらかと言えば水が退いて行ったように見えた。


「え…」


驚いてその様を凝視しながら固まっていれば、小太郎が立ち上がったらしくザブンという音が聞こえて、俺は弾かれたように振り返る。


「上がるか、風魔」

「……(コク」


どうやらこのおかしな事を見て立ち上がった訳じゃなくて、ただ単に上がるらしい。
少しほっとして、…なぜほっとしたのかは分からないがもう一度岩を見てみると、完全に乾いた岩がそこにあった。
…何か、怖い。じぃちゃんに才蔵も上がるかと聞かれたので、こっくりと頷いておいた。
この岩から早く離れたかったのかもしれない。


小太郎に抱き抱えられて湯船の岩の上に降ろされる。
そして置いてあった木の小さい椅子を持ってきて、腕出して、と手を差し出された。
小太郎の手には変な薄茶色の布が握られてて、たぶん体洗うの手伝ってくれるんだろうけど、さすがに俺一人でも出来るよ小太郎…。
うん、差し出しちゃうんだけどね? 腕。


「……(コシコシ」

「なんか、くすぐったい」

「……(クシクシ」

「ふふっくすぐったいっ」


今のはわざとだな、小太郎。
脇をくすぐったのは絶対わざとだ。

くすぐったさに身をよじっていれば、逆の腕も出して、とやられたからちょっとだけ仕返しに強く手で小太郎の手のひらを叩いた。
そしたら「ぺちん」って、凄い情けない音がしました。
何だこれ、恥ずかしい。

もう片方の腕が洗い終わり、久しぶりの爽快感にすっきりしていると後ろを向かされて、服を思いっきり剥かれた。


「うあ!」


バランスを崩して後ろにひっくり返りかけたが、なんとか持ち直して小太郎にまだ袖に引っかかっていた両手を抜かれる。

…小太郎、教えてよお願いだから…。


 

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