■ そっぽを

「…!」

「む?」


既に膳が用意された広間に近付いてくる二つの気配に、素早くピクリと反応した小太郎を見て来たかと氏政は同じ方向を向く。
しばらくすると氏政の耳にも聞こえる程に鳴る鶯張りの板の音と、鈴のチリンと鳴る音や金属の軽い音がしてくるものだから、あぁ着飾られているんだろうとなんとなく予想がついた。

はてさてどんな格好で来たやら。
そう思っていれば、ス、と襖が開けられて先に満足したらしい笑みをたたえた女将が入って来る。
しばらくお互いその場で正座し待っていたのだが、どうやら入って来たがらない才蔵が入り口で踏み止まっているらしく、首だけ出して襖の奥の廊下を見つめていた。
そして一度立ち上がり、襖の向こうへと消えれば「ぅあっ」という才蔵の声が聞こえ、才蔵を抱えてやって来た。
古くからの付き合いだが、そういう所がかなり男らしい。

トスン、と降ろされた才蔵は季節外れだが、綺麗な桜の刺繍のされた桃色の着物を着ていて。
白藍色の打ち掛けも小さな花と蝶に、下の方にかけて摺箔を流れるように水流の模様が入っており、いつもは無造作な髪も綺麗に簪で纏められ、その簪もまた細かな装飾がされていた。
豪華絢爛なその様は、まるでどこかの姫だ。


「……っ」


恥ずかしいのか俯いて斜め下を向けば、しゃらん、と簪が鳴る。
簪と帯飾りは対になるようで、帯飾りにのみついた鈴を転がすと、先程聞いたあの鈴の音が聞こえた。


「よう似合っとるぞい!」

「っ、…あんま…うれしく、ない」


袖で顔を隠してしまう才蔵に可愛い可愛いと連呼すれば、ぷいっと向こうを向かれる。
その動作すら氏政にとっては可愛らしいのだから、仕方ない。


「風魔もそう思うぢゃろう?」


むー…と向こうを向いてむくれっ面をしていれば、じぃちゃんが小太郎に話を振るものだから思わずチラリと振り向いてしまう。
風魔の事になると振り向く才蔵に、氏政はまた笑った。


「……」


そして小太郎はと言えば、すぐに頷こうとしたのだが何だか「頷くの…?」というような目をして見てくる才蔵と、自分の気持ちに板挟み状態になっている。
頷いたら頷いたで才蔵がまたそっぽを向くだろうし、かと言って否定するのは何か違う。
どうしたものかと悩んでいると、察した氏政がそれならばともう一つ聞く。


「嫁には出したくなかろ?」

「…(コックリ」


その言葉に間髪入れずに頷いた小太郎に、嬉しいやら怒りたいやら悲しいやら物凄く微妙な心境で、やっぱり俺はそっぽを向いた。


 

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