■ 着せ替え

そんな俺に気付いたらしい女将さんがにっこりと浮かべた笑みに、俺は背筋に何かが這うような寒気に襲われた。
…この笑い方は前にも見たことがあって、どうしようもなく嫌〜な予感がする……。

とてとてと二人の後ろを付いて行っていた俺の腕をしっかと掴み、驚く俺と不思議そうな顔をするじぃちゃん達に女将さんはまたにっこりと笑いながら言う。


「少し、この童をお借り致しまする」


そう言って才蔵を連れて行ってしまう女将に、小太郎は一瞬わたわたとして後を追いかけようとするが今度は氏政が小太郎の服を掴み、才蔵と同じく「ワシらはこっちぢゃ」と夕餉の用意される広間へと連行されて行った。

たしかにあの女将の女には敵意は感じなかったし、毒や火薬、血の臭いもしなかったからくの一という事は無いだろう。
だから女将の腕が才蔵に伸びた事に気付いていたが、何もしなかったのだ。
それでもなお別れた地点を振り返る小太郎に、氏政は心配するなと笑い飛ばす。


「あれは気は強いが、子供に何かしたりするような奴ではないわい。何、すぐに戻ってくるぢゃろ」

「……」


そう言われたところで、自身の目の届く所から離れる事には変わりない。

忍だというのに上の空で感情を丸出しにしている小太郎と、今まで見る事が無かったその姿を見れて嬉しくて堪らない氏政は、満足そうに笑いながら歩を進めて行った。






「うーん、どんな色が似合うかしらねぇ」

「やっぱり肌が白いから映える色のほうが良ろしゅうございましょうなあ」

「白粉も塗っておりませぬのに、なんと綺麗な肌でござりまするか」

「これほどの綺麗なお髪も、手入れをせねば勿体のうござりますれば」

「……」


その頃の才蔵と言えば、女将を筆頭とする旅館の女性陣に群がられていた。

嫌な予感は見事的中していて、初めて小田原の城に来た時のように着せ替えというか、自分や何かを着飾る事に鋭く敏感な女性達に着せ替え人形にされる。
部屋中が女の匂いに満たされるそんな状況を前に、俺は黙って盛り上がる集団の真ん中に座っていた。


「……こた…じちゃ…、」


……逃げられる気がしません。


 

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