■ 一番怖い

「おれ、おっきくなったら、こたみたいなにんじゃなる!」


べちべちと枝で葉っぱを叩きながらそう言えば、じぃちゃんはほっほっと髭を撫でながら笑う。


「そりゃ大層な夢ぢゃのう! 才蔵ならば腕の立つ忍になれるぢゃろうて」


うむ! と頷くじぃちゃんを、肩越しにジト目で見つめる小太郎。
何か言いたいらしく、わざと気付かないフリをしてるじぃちゃんを根気よく見つめ続け、ついに折れたらしいじぃちゃんがちらりと小太郎に目を向けた。

……何かいけない事を言っちゃったかな、俺。

ちょっと小太郎の反応がアレだったから、今まで片手で持っていた枝を両手で持ち、ぎゅっと握りしめて二人の様子を伺う。
情けない顔をしている俺に気付いたのか、じぃちゃんが手をひらひらとさせて違うと言った。


「なに、忍は修行も任務も辛い仕事なんぢゃ。そんな事を可愛い才蔵にさせたくないという風魔の親心ぢゃ、親心」

「……ぉ、ゃ」


冗談めかして言うじぃちゃんだったが、色々気になる言葉がたくさん出てきて、頭と体の動きが止まる中で最後の言葉だけが無意識に口に出てくる。忍って、やっぱり簡単じゃないんだなぁという事。
小太郎がそう思ってくれている事。

そして、じぃちゃんの言った親心。

俺が忍になりたいという事を、要は小太郎はあまり応援出来なくて、でもその理由は俺を心配してくれているからこそで。
なぜ心配してくれているのかと言うと、親心だと。


本音を言えば、凄く…、…凄く…微妙な心境だ。

そう思ってくれている事はきっと俺は嬉しいと思っている、でもはっきりとは分からないのだ。
今までだって小太郎の事を間違えて「お父さん」って呼んでしまいそうだと思った事はあるし、実際そうだったら良いなと思った事はある。
本当にそうだったら、ずっと最初から一緒に居られたのかもと。
そう思っているけれど、呼んじゃいけないし、そう思う事すらおこがましいというか。

「お父さん」と、そう呼ぶだけで全ての責任が小太郎に行ってしまいそうで怖い。

俺が何か失敗すれば、小太郎が失敗したみたいに。
何か悪い事をすれば、小太郎が俺をキチンと躾なかったからと。
小太郎のせいじゃないのに、俺のせいでそう言われてしまう。

ただでさえこんな俺なのに、俺がこんな瞳の色をしていては、何か言われるたびに小太郎が言われる。
今は良いかもしれないけれど、そうして言われていくうちに嫌になって、でも言い出せなくてずっと嫌なまま続けてくれてしまう事が一番怖い。

嫌なまま、我慢されていく方が一番悲しい。


 

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