■ 悔し泣き

悲しいという訳ではない。
いきなり水が上空で止まって浮かんで、岩からは水が退いて、確かに怖かったけれどそういう訳でもない。

そういうんじゃなくて、怒りというか…悔しいというか。
昔、算数の問題が解けず、父に教えてもらってもどうしても分からなくて、最終的には泣きながら問題を解いていていた記憶がある。
それに近いのかもしれない。

何も理由すら分かっていないのに、納得さえしていないのに、ただ結果だけを突き付けられている事の理不尽さに憤りを感じているのだ。
同時に「だから嫌だと言ったのに」という気持ちも出てきていて、じぃちゃんと小太郎に対してそう思ってしまっている自分がまた嫌で、そんな堂々巡りの思考にしかめっ面してぼろぼろ泣き出していた俺をじぃちゃんが抱き上げる。


「すまんかった、すまんかった。ワシが悪かったのぅ」

「っ…!」


その言葉を聞いて、ついさっきまで思っていた事とは裏腹に、小さく何度も首を横に振る。
だけど涙は相変わらずぼろぼろぼろぼろ出てきていて、じぃちゃんは俺の背中を擦りながら「泣かんでよい」と宥めていてくれた。「怖かったのぉ、才蔵。冷たかったのぉ、よう頑張った。大丈夫ぢゃ、ワシらが付いておる」

「ぃ…じょぶ、だい、じょぶ…っ」

「そうぢゃ、大丈夫ぢゃよ。心配せずともよい」


じぃちゃんの首にしがみつきながら、大丈夫と繰り返すのは俺は大丈夫だよって言いたかったのと、自分に言い聞かせてるのとで半々だったと思う。
さっきまで頭の中でぐちゃぐちゃとしていた黒い物はいつの間にか消え失せ、ただ擦ってくれている手が温かかった事だけが記憶に刻まれた。


やっと涙がひいてきた頃、小太郎が手拭いで俺の汚くなった顔を拭いたあと、それを川の水で洗って冷やしてくれたのを目に当てときなって渡してくれる。
あぁ、腫れるもんね、瞼。

そして両目に手拭い当てて立ち止まってる俺を抱き上げて、小屋の中へと回収していく。
早業で脱がされ体拭かれて、服を着せてくれたのはありがたいんだけどちょっと微妙な心境です。

わっしゃわっしゃと頭を拭かれながらそんな事を考えていれば終わったらしく、今度はぐしゃぐしゃと手でかき混ぜられた。
下手したら俺ハゲるよー、なんて思っていたら今度こそ終わったみたいで「よし!」と小太郎がしゃがんで俺の髪を撫で付ける。
その拍子に近くで見れた小太郎の髪が濡れてたから、俺もお返しにわっしゃわっしゃと拭き返した。
そしたら、ただ単に小太郎の髪の毛がボサボサになっただけになりました。
ごめん小太郎。


 

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