■ 泣きそう
あまりの光景に固まっていたら、じぃちゃんが良い笑顔で俺に桶を渡してくる。
やっぱりやれって事なんですね?
(絶対いや!)
ぶんぶんと頭を振って拒否するも、じぃちゃんも首を振って桶に水を汲み、スタンバイする。
いや無理だからじぃちゃん、絶対心臓止まる!
「なんぢゃ才蔵、嫌がりおって」
「だって、つめたいっ」
体に付いた湯を洗い流さんと。
なんて言われても、嫌なものは嫌である。
俺はプルプルと頭を振り、何とか逃れようと助けを求め小太郎に視線を送った…が、小太郎はこっくりと頷くだけ。
要は「頑張れ」って事だ。
小太郎の裏切り…もとい正論により、どうやら俺は四面楚歌のようです。どうしよう。
「ほれ、掛けるぞぃ」
「ッ!!」
俺の頭目掛け落ちてくるだろう、桶いっぱいの冷えた水を予想し、ぎゅっと目を閉じて手で庇う。
けれど、三秒待っても十秒待っても降ってくる事はなくて、最初はじぃちゃんが勿体振っているのだろうと思っていたのだが、あまりに遅く、二人が妙に静かなのに気付いてそっと目を開けた。
俯いたから、目を開けて初めに目に入るのは地面だけど、よくある川原の丸っこい石が散らばっている地面に、ちょうど水面に反射した光の影のようなものがゆらゆらと映っている。
何だろうこれ。
そう思って上を向いた俺は固まってしまった。
最初は時間でも止まったのかと思った。
でもじぃちゃんの奥に流れている川のせせらぎの音はさっきと同じテンポで聞こえ、同じ速さで流れている。
じぃちゃんも驚いているのか、その目の前の物を見て桶をポロリと落っことした。
目の前の物、それは水に変わりないのだが位置と状況に問題がある。
――水は普通、宙に浮いたりしないだろう?
ぷかりぷかり浮かぶ水の塊はまるで、無重力の中で水を溢したみたいにくにゃくにゃしながら日の光を反射して光っていた。
小太郎を見てもさすがに驚いたらしく、何のリアクションもない。
(何なんだ、これ)
そう思いその水の塊めざし手を伸ばした瞬間、ビタタタンッ!! と顔面にまるごとそれが落ちてきた。
これは痛い。
「さ、才蔵…」
「………」
「……ぅ」
「だ、大丈夫か……?」心配そうなじぃちゃんの声がするが、はっきり言って大丈夫じゃない。
痛いし、何が起こったのか分からないし、めちゃくちゃ冷たい。
何でこうなってるの。
泣きそうになるのを我慢出来ず、じわじわと涙が浮かんできた。
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