■ 鼻が痛い


「熱くない、熱くない」と抱き抱えられたまま背中をポンポンと叩かれつつ、ゆっくりお湯に浸かっていく。
最初の時こそ小太郎にひしっとコアラの子供よろしくしがみついていた俺だが、お湯があんまり熱くない事に気付いて体の力を抜いてみる。

お、意外と大丈夫そう。

小太郎の膝の上に鎮座し、反対側に居るじぃちゃんの所に行こうと足を踏み出そうとした直前に「才蔵」と呼ばれ、うん? と顔をじぃちゃんの方に向ければ。


「ッ!」

「!!?」

「そこは深いから気を付けて…、遅かったか…」


遅いよじぃちゃん。

ボチャンッ、と頭のてっぺんを残して冠水した俺はびっくりして水の中で息吸っちゃって、思いっきり鼻と口から飲む事になりました。


「…!!(ワタワタ」

「げほっ! けほっこふっ! …けほ…、ぅえ」


うわぁ、変な味ぃ。
鼻に入ったから凄い痛い。

ざばぁっと小太郎に救出された俺は、両手で鼻を押さえながら噎せ返る。
じぃちゃんを見れば「すまんすまん」と笑っていて、笑い事じゃないと口を引き結んだ。


「ゔ〜…」
もう良いよ、俺小太郎から離れないから。
ずっと膝の上に居るから。

若干涙目なうえ、小太郎に両手出して抱き上げてもらい、首にしがみつくというなんとも情けないが、もう俺子供だからって吹っ切れようと思います。
…今だけね。

まぁ結果、ずっと俺が小太郎から離れないもんだから、最終的にはじぃちゃんがこっち側に来て小太郎から俺をひっぺがすという結末に到ったわけなんだけども。

そして今はじぃちゃんの膝の上、三人でぼーっと空見てます。
でも俺だけちょっと飽きてきて、両手で水鉄砲作って遊んでたり、じぃちゃんの手で遊んだりしてます。

うーん…、ちょっと暇だなぁ。

ふと乾いた大きい岩が目に入ったから、腕を伸ばして濡れた指で文字を書いていった。
まあ暇つぶしにはなる。


(さいぞう、と)


漢字は前に書いたから、今度はじぃちゃんの直筆五十音表で練習した平仮名で書いていく。
ほんとは平仮名って、女の人が使うらしいんだけどね。


「じちゃ、じーちゃっ」

「む? なんぢゃ?」


名前を呼び、たった今書いた岩を指差す。
最初は何の事やらだったじぃちゃんも、岩の文字を見て「ふぉふぉ」と笑ってくれた。


「よく書けたのう、才蔵はほんに凄いのう!」

「ふふふー」


うん、悪い気はしない!



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