■ あつい?
まだまだ先は長い。
これから先に変化する事だってあるだろう。
ゆっくり、気長に歩んで行けばいい。
「こた?」
「………」
不思議そうにこちらを見てくる才蔵の頭にコツリと自身の頭をくっ付けてやれば、何が何だか分かっていないようだが途端に笑顔になる様子を見て。
「……」
どうにもこの子供には弱い、と己の弱点に気付くのだった。
その後、嫉妬した翁によってすぐさま脱衣場へと強制連行される事になったが。
天然露天風呂のほんの少し離れた所に建っている、山小屋と言うには狭く、簡易式な小屋が脱衣場となっており、壁には棚のつもりなのか板が二段状に打ち込まれていた。
もっとも、俺の身長では背伸びしてやっと一段目が覗ける程度ですけどねっ。
服脱ぐのかなーと帯をぎゅむぎゅむ引っ張っていれば、それに気付いた小太郎がほどいてくれる。
ごめん、ありがと小太郎。
ていうか着替えるの早いね。
いつの間にか着替えが終了していた小太郎は白い浴衣みたいなものを着ていて、それで終わりなの? なんて思っていると同じものを渡される。
広げて見てみると、子供サイズというか小太郎の着ているやつのちっちゃいバージョンで。
「これきるの?」
「……(コクリ」
これ着て入るんだ、初めて知った。
とりあえず脱いでそれを羽織り、さっきまで着ていた服を折り畳む。
よいしょと背伸びし棚の上に乗せ、腰ひもを結ぼうとすれば小太郎の方を向かされてキュッと手早く結ばれた。
…小太郎、俺のこと不器用だと思ってるのかな。
だってさっきから帯をほどく時とか小太郎がやってるし、確かに俺手間取ってたけど。
うーん…と意識の隅で考えるも、じぃちゃんに手を引かれ温泉を目の前にすればどこかに吹っ飛んでいった。
「相変わらず澄んだ色をしとるのぅ」
じぃちゃんの言う通りお湯は茶色だけど烏龍茶みたいな色と透明度で、たぶん俺ペットボトルに入ってたら普通にお茶だと思って飲むと思う。
近付けばホカホカするくらいに感じる温泉の温度は、きっと熱めだ。
先にじぃちゃんが入って、次に小太郎が入っていく。
「大丈夫ぢゃ才蔵、早う入ってこんか」
「…あつい?」
そう聞いたら、じぃちゃんに噴き出された。
結構俺、真剣なんだけど。
恐る恐る片足の指を突っ込んだりなんだりしていれば、川に近い方が温いからと小太郎に移動させられた。
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