■ 頬っぺた


思いっきり顔がニヤけたままこっくりと頷けば、またふふふと笑って俺の頬を人差し指でプニプニと軽くつついてきた。

この人会う度に必ず一回は俺の頬触るんだよね。

まぁマッサージされてるみたいで気持ち良いから、俺は別に良いんだけど…。


「今日もいいほっぺ!」


両手で両方の頬を挟まれてむにむにとされているのを、抱っこしてる所為で小太郎が超至近距離から見てくるのが俺気になる。

ただ単に「何してるんだろう?」みたいな感じで見てるんだろうけど、距離の所為かすっごい視線感じるんだな、これが。

若干居たたまれなくなってきた頃、女中さんがささーっと離れたとおもったら、着替えたじぃちゃんがやって来た。

女中さんの「お着替えをお持ちしました」の言葉に「うむ」と頷いてから、こっちを見る。


「待たせたのぅ。 それじゃあ行くとするか」


そう言われ、小太郎が俺を地面に降ろした。

小太郎に手を引かれながら後ろを振り向いて女中さんに手を振れば、一瞬きょとんとした顔をしてすぐに笑って手を振り返してくれる。

そんなやり取りに満足してにまにまとしていたら、小太郎にバッチリ見られてて恥ずかしかった。

うわぁ、とか思って顔を逸らした時、ある事に気付く。


「じぃちゃ」

「む?」

「ほかのひと、いないの?」


辺りに俺達三人以外、誰も居ないのだ。

一応何人かの忍さんが森の中に居て付いて来てるっぽいんだけど、刀提げた感じの武将さん? みたいな人は見当たらない。

じぃちゃんって中々偉い人だよね、たしか。
北条氏政って教科書とかでも見た気がするし、城に住んでるし。

そんな人をこんな人数で大丈夫なのか。

そんなふうに思っていれば「何を言うか」と少しぷりぷりしたようにじぃちゃんが言う。


「ワシは三人で行きたいのぢゃぞ。 それなのに、あの者達と言ったら危ないだの忍だのとうるさくて敵わん。 そんなの連れてのんびり旅行を楽しめる訳がなかろうて」


ふぅ、と溜め息をついて言うじぃちゃんに俺は苦笑いする。

まぁ心配してるんだろうなぁ…、じぃちゃんを。
心配する気持ちはなんとなく分かるよ、うん。
だってじぃちゃんだもの。

うーん…とちょっと遠い目をしてたら、小太郎にじぃちゃんに見えないように隠れながら人差し指を自分の唇にあてて首を横に振られた。

あ、小太郎もそう思うんだ。

分かったと言う代わりに手を強く握った。



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