■ 初・玄関
おそらくあの村での扱いや、瞳の色についての不安が色濃く残っていたからだろう。
この城に居てもそわそわとしていたし、今ではその片鱗さえ見られないが己や翁も怖がっていたのだ。
それだというのに、慣れていない他人に会わすのは、些か可哀想だった。
…これまでは。
(今はもう)
なんだか平気そうな気もする。
最近の才蔵を見ている限り、少なくはあるが自分から話しかけている姿も見られる。
それは大きな進歩だと思う。
後で翁に伝えてみるか。
もちろん、採寸の時も共に居るつもりだが、人の良い呉服屋を探して。
縁側に出て、才蔵の足に巻いた布の上から草鞋の紐を更に巻き、それをキュッと縛ってもう片方の足も同じようにやって「よし」と頷く。
「おぉー」
それを終わりの合図に縁側から下りて数歩歩き、小太郎の方を振り返る。
時代劇みたい!
…いや、もう時代劇の中に入っちゃったようなもんだけど…。
よく時代劇に出てくる旅人で手足に白い布みたいなの巻いてるじゃん?
あれを装着! みたいな。
よく見れば小太郎も手にはついてないけど、足におんなじの巻いてるし。
ヤバいおでかけとかテンション上がってきた。
「ふふー!」
うわー早く行きてー。
小太郎が俺を持ち上げようと屈んできたから俺も両手上げて小太郎の方へ差し出す。
そのままヒョイと脇を掴んで持ち上げられ、今回は抱えられたまま屋根に上がり走り出す。
これも毎度の事だけどめちゃくちゃ速い。
俺も頑張ればこんくらい速く走れるかな。
…うん。
(修行だな)
小太郎にしがみ付きながらそう決意する。
フワッと無重力になり、音も無く着地した場所は見た事の無い場所。
まぁ半分引きこもり状態の俺だから見た事が無いだけなんだけどね。
たぶん、ここ玄関?
小太郎に抱えられたままキョロキョロと辺りを見回していれば、風呂敷を持って歩いてくる女中さんが一人目に入る。
俺を見ると「あ」と言うような顔をして笑いかけてきてくれた。
「お荷物お持ちしました」
「……(ペコリ」
藤色の風呂敷を小太郎に渡したあと、ふふふと笑う。
「才蔵くんがこんな所に居るなんて珍しい。 どうしたの?」
「おでかけ、こたとじちゃといくの」
「そっかぁ」
良かったねぇ、と頭を撫でてくれて自然と顔がニヤける。
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