■ こっくり


そう疑問に思い、自分の頬に手をあてムニムニとしていた才蔵にをじっと見つめていれば、それに気付いたらしくこちらを見上げ、コテリと首を傾ぐ。

質問しようにもどうすれば良いのか分からなくて、とりあえず、才蔵とさっきまで居た木を交互に見れば伝わったらしく「ああ!」というような顔をして、わたわたと懐から紙を取り出した。


「ぁ、あのねっ」


目の前に突き出されたその紙は何やら見覚えのある紙で。
たしか、翁が手書きで書いた五十音表であったと思い出した。

今思えば、通り過ぎたあの時に地面に置かれていたような気もする。


「これ、とんでっちゃって」


紙を取り出した時と同じく、妙に必死に木を指差して伝えようとしてくる姿が可愛いなぁと思いつつ、才蔵と一緒に木の方を見上げ「ああなるほど」と納得した。

たしかに、この子供が木を登る理由には十分だ。

いやしかし、本当に落ちたりしなくて良かったと思っていれば「ふへへ」と笑う声が聞こえ、声のした方を見てみればふにゃりとした笑顔を浮かべている才蔵がいて。

一体どうしたんだと見つめてしまう。すると途端に慌てて顔を戻す才蔵。

本当にどうしたんだろうか?
考えてはみたものの、やはり子供の思考回路なんてとうの昔に成人した己に分かるはずもなく、う〜んと頭を悩ました。

だが再び目に入ったあの五十音表に、そういえばと思い、指でちょいちょいと呼び寄せれば素直にてててて、と効果音が付きそうな足取りで才蔵がやって来る。

ほんと可愛いなこの子。

頭をくしゃくしゃとやりたくなったが堪えて、才蔵から受け取った紙を広げ“も”と書かれた所を指差してみる。

別に深い意味は無い。
この子がどこまで読めるのか、ちょっと試してみたくなっただけだ。

もちろん、この一文字が読めなかった場合には自分が出来る限り教えるつもりなのだが。


「…も?」


少し間が空いて、指差した文字と同じ発音が返される。

少し間が空いたのと最後の疑問符は、きっとこの行為自体を不思議に思ったからだろう。

こくりと頷いて、今度は“う”と書かれた所を指差す。


「う」


これまた正しい答えが返ってきて、続けて次の文字を指差した。


「す、べ、て、よ、め、る、の、か…?」


言いたかった全ての文字を指差し、発音され、何か気付いたように顔を上げた才蔵にこっくりと深く頷いて見せれば、途端に顔を紅潮させる。


 

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