■ 二度見で
風魔…は、さすがに駄目か、名字を呼び捨ては。
何か偉そうだし、俺偉くないし。
じぃちゃんは別だけどね。 偉いし、凄いし、雇い主さんだし、城主さんだし、じぃちゃんだし。
最後が何かおかしいのは気にしないで。
とりあえずじぃちゃんは特別です。
(あとは〜……)
才蔵が木の上で腕を組み、頭をいろんな意味で捻ってうんうん言っているのと時を同じく、下でもいつの間にか消え、もともと気配が薄く消すのも上手い才蔵がどこに行ったものかと首を傾げ、う〜んとなっていた。
女中なら味方は多いが、その他一部の女中と武将らにあまり評判は良いとは言えない才蔵がいつもの行動範囲を出るという事は、少々芳しくない。
まぁこの城の中で、城主である氏政に好かれているあの子供に手を出す輩はそうそう居ないとは思うが、やはり念には念を入れた方が良いだろう。
もう少し周りを回ってみるか。
そう思い至った小太郎が屋根に飛び上がったのに、才蔵は焦る。
今更になってやっと自分が今居る場所が木の上で、降りるに降りられなくなったのを思い出したのだ。
このまま小太郎にどこかへ行かれれば、かなり大変な事になる。
(ま、待って!)
「こっ! こたろっ!!」
…あ゙…。
…やっ、ちゃっ、たー…。
言った後、自分で自分の顔から血の気がサーッと引いていくのが分かる。
またやってしまった……。
ひやりとした感覚が頭から腰に駆けていき、冷や汗がじんわりと滲む。
うーわ俺完璧バカやったよ、なんて思いながら小太郎の方を様子見してみれば、こちらに視線を向けた小太郎が居て。
だがすぐにフイッと前を向き直ってしまう。
かと思えばバッ! と効果音が付きそうなぐらいの勢いでまたこちらを向いてきて、口を少し半開きにして唖然とした顔で凝視してきた。
(わー…あんな顔初めて見た…)
なんて考えた瞬間、風がブワリと吹き、慣れた腕の感触がして、たった一度のまばたきの間に気付けば自分の部屋の前の廊下で小太郎に小脇に抱えられていた。
そっと降ろされ、状況変化について行けず呆けている状態の俺をよそに向く位置を変えられ、空港のボディチェック並みにペタペタと小太郎に…点検? かなこれ…、とにかくボディチェックされた。
手の平の擦り傷を見られた時に少し小太郎が固まった気がするのは気のせいだろうか。
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