■ ミミズ文字
肥満度でも測られているんだろうかと才蔵は思っていたが、実際そうだったりする。
ふにふに腕を揉む小太郎はその感触に若干癒やされながらも、この子供の成長を確認していた。
この感触からして、重くなったのは太ったんだろう。
だが悪い事じゃない。
ここに来た頃が痩せていたんだから、むしろ良い事だ。
女中や下男の子供や城下に居る子供より痩せていた。
体温も低いし、子供らしいふっくらしたハリのある肌もしていなかった。
そうなった理由なんて考えるまでも無い。
それはおそらく今も、体力が戻って成長して、大人になっても、ずっと心身ともに残る出来事だ。
つい先日の出来事が良い例だろう。
要らない気遣いまで子供にさせて、そのくせ自分が被害者のように振る舞うとは、なんとも腹立たしい。
人より優れた記憶力で甦らされるのは、才蔵の居た村人の事。
いきなり小太郎がピリピリしだしたのに気付いた氏政は、「ほんに風魔は何を考えているんだかさっぱり分からんわい」と思いつつオホンッとわざとらしく咳払いをする。
それに我に返った小太郎は、不思議そうに見つめてくる才蔵にふるふると頭を振って「気にするな」と言う。
一体なんだったんだと思ったが、とりあえず降ろしてもらえないだろうか。
いや、この二人に抱っこされるのは嫌いじゃないんだけどね?
男としてどうよっていう。 うん、今更だけどね? ホント今更なんだけど!
「ふーまさん、ふーまさん」
ぺちぺちと風魔さんの腕を叩いて下を指差せば分かってくれたらしく、ゆっくり降ろしてくれる。
あ、この位置だとじぃちゃんの後ろで見えなかった所が見えるな。
てくてくと歩いて行けば、そこにあったのは机。
その上には硯に入った墨に筆、そして紙に書かれたみみずみたいなの。
「なんちゃこりゃ」
あ、噛んだ。
正しくは「なんじゃこりゃ」ね。
じぃちゃんその笑いこらえた感じの目、止めて。
余計恥ずかしいから。
「風魔と同じような目で見てくるのぅ」と今度こそ笑いながら俺の隣に腰掛けたじぃちゃんに、何の事だかさっぱり分からず風魔さんを見たが若干目を逸らされた気がした。
「そうかそうか、才蔵は字を知らんか」
「じ?」
え、もしかしてこれが? このみみずが?
そう思いじぃっと見てみれば、なんとなくひらがなに見えなくもない。
頑張れば解読出来るかも。
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