■ 睦まじく
ぽかぽかと言う表現が似合いそうなくらい、暦の季節には早いが初春にはふさわしい天気。
柔らかくも冷たい空気の中、小田原城の廊下を並んで歩く赤い髪の長身の男と、黒い髪の歳のわりに小さく細い子供。
後ろからシルエットだけ見れば髪質も似ており、仲良く手を繋いで歩いているので親子に見えるのは女中の間では有名な話だ。
…ただ当の二人だけ全く知らないが。
(風魔さん手ぇでっかいな〜…)
晃樹こと才蔵は、自分の顔の位置にある小太郎と繋いでいる手を見てそう思う。
実際の所、繋いでいるというより晃樹が小太郎の指を二本ほど握っているのだが、その謙虚さが逆に仲睦まじく見えるらしい。
最初は袖を握っていたんだけどそれじゃ心配ならしくて、手を握るように言われたんでそれから握ってます。
でも俺の小さい手で風魔さんの手を握るには大きさが違い過ぎて、指二本が限界です。
(固いし、しっかりしてるし…やっぱ忍だからなんかな)
そんな風に考えながら、にぎにぎふにふに、としていれば不思議に思ったらしく、才蔵の方を向いて首を傾げられた。
それに「なんでもない」と横に振れば、また俺の歩幅に合わせゆっくり歩き出す。
そこが大好き。
ただいま、じぃちゃんの部屋に向かい移動中。
* * *
「…ん? おお才蔵! よく来たわい!」
「……っ!」
襖を開けた事で気付いたのか、振り向いてこちらを見る氏政。
そして俺を見つけた途端笑顔になって両手を広げる氏政に、俺は一度風魔さんを見てから手を離してじぃちゃんの元へ走って行く。
むぎゅっと抱き付いた才蔵を氏政も抱き締め返して、「よいせ」と持ち上げた氏政はふと違和感を感じた。
「才蔵、少し重くなったか」
「…?」
そう言われても分からない俺はコテリと首を傾げる。
重くなったかと聞かれても、自分の事はよく分からない。
そんな事を思っていれば、後ろから脇に手を入れられヒョイッと持ち上げられた。
そしてくるりと風魔さんと正面に回され、いつかの高い高いのポーズのままステイ。
「どうぢゃ? 風魔もそう思うぢゃろう?」
「………」
しばらく間が空いた後、こっくりと頷かれる。
そして腕に座るように抱き直され、袖を捲られて腕をふにふにと触られた。
なんかくすぐったいです、風魔さん。
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