■ 居て良い
いきなりこの場には居なかったはずの第三者の声が聞こえ、バッと声のした方向を向く。
そこには、腰に手を当てて仁王立ちをしている氏政が居た。
「やけに胸騒ぎがするから来てみれば、まったく何をやっておるのぢゃ。ほんにお主らは面倒な性格をしておるわい」
ハーッと大きなため息を吐いた後、ズカズカとこちらに向かって来る氏政に思わず晃樹は体を縮こまらせてしまう。
その様子を見て小太郎は心配になるのだが、止めるよりも早く氏政は晃樹を「よっこらせ」と持ち上げ、目線を合わせていた。
いつもの和やかで優しそうな目をしておらず、キッとした強い目に晃樹は軽くパニックになる。
やっぱり、気持ち悪いんじゃないだろうか。
気持ち悪いなら、無理して触らなくて良いのに。
一人わたわたと手を動かす晃樹にしっかり目を合わせ、氏政は口を開く。
「才蔵」
「ぅあ、あいっ!」
「才蔵はワシが嫌いか」
「へ、」
いきなり名を呼ばれ、不自然に力の入った声が出てしまいまたパニックになりそうだったが、氏政の質問に頭の中が一気に冷えていく。
嫌い?
「ワシや風魔が嫌いか、才蔵。 ここが嫌いか」
嫌い?
そんなの、そんな事――
「すきっ、みんな、ぜんぶ」
――ある訳が無い。
ここが大好きだ、じぃちゃんも風魔さんも、医者の人も侍女さんも皆大好きだ。
離れたくないんだ。
大好きなんだ、本当に。
本当は、一番大切なんだ。
一緒に居たいんだ、本当は。
「ならそれで良かろう。 いつまでも居るが良い」
「で…でも、おれ、おかしい。 め、きもちわるい。 みんな、や、っていう」
「子供がそんな事を気にせんで良いわい、子供は子供らしく、甘えておるが仕事ぢゃ!」
そうキッパリ言われ、視界の端でコクコクと頭を縦に振る風魔さんが見えた。
じゃあ、ちょっと待ってよ。
「じちゃ、きもちわるくないの? おれ、じゃまじゃないの?」
俺の質問にじぃちゃんはこっくりと頷く。
「おれ、しゃべってもいーの? おれ、わらってもいーの?」
あの村では、止めろと言われた事。
風魔さんも、こっくりと頷いてくれている。
じゃあ、それじゃあ。
「おれ、ここにいてもいいの」
顔をクシャクシャにして笑って、強く抱き締めながら頭を撫でてくれたじぃちゃんの服にへばり付きながら、俺は今日二回目の大泣きをする事になった。
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