■ 分かろう



何だろうと確かめる前になでなでと動かされ、それが目の前にいる小太郎のものだと気付くには時間を要した。

氏政には撫でられた事が何度かある。

薬師にも腹の傷を診せた時、血液と一緒に固まってしまった膿を剥がされて、かなり痛かったが我慢した時に撫でられた事がある。

なぜか自分の見た目を全く怖がらない女中達に撫でられるのはしょっちゅうだ。


だが。


(風魔さんに撫でられるのは初めてだ…)


うわやべえテンション上がる、なんて頬が完全に緩んでしまいニマニマと笑っているのは自分自身気付いていないらしい。

ただその撫で方があまりにもぎこちないのには、さすがに気付いていたが。


もうちょっと強くやっても良いよ、と言うように、乗せられている手にグイグイと猫のように押し付ける。

それに気付いた小太郎が今度は両手でわしわしと髪をかき混ぜるのだが、それがなんとも気持ちよくて。

自然と喉からキャッキャと子供らしい笑い声が漏れ、ひとしきり撫でてもらった後にまた沈黙が訪れる。


ただ今度は小太郎が何かしようと思ったのか、口が微かに開く。

それに晃樹は気が付くと、座っていてもはるか高い位置にある小太郎の顔を一心に見つめた。


「“何で泣いた?”」


そう問うてみるが、やはり長いからか目の前の子供には分からないらしく、こてっと首を傾げられる。

それでも一生懸命に分かろうとしてくれたこの子供を、自分も分かろうとしなくては。


今度は一度目に触れて、少し頬まで指先を滑らした後に子供の頭をとんとんと指で叩き、自分もこてりと首を傾げ肩をすくめてみせる。


晃樹はそのまま手のひらをパーにされなくて良かった、などと思いつつもどんな意味だろうかと悩む。

たぶん、何かが分からないんだと思うんだ。
自分のやった何かが。
それを聞こうとしている。

何だろう……目に触れた後、頬まで滑ったのには何か意味があるのだろうか。

そう思い目に触れた時、あ、と気付く。


泣いたって意味じゃないのか。


いつの間にか俯いていたのか、顔をバッと上げ、小太郎の顔を見る。


「なひたってこと?」


あれ…、さっきまで“い”が言えてたのにな〜…。と若干ショックを受けながらも、こくりと頷かれ小太郎の頭に喜びを感じた。


やべえぜ俺、伝説の忍の言ってる事分かっちゃったぜ。


 

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