■ 知りたい



くーくーと二人きりにされた部屋に寝息だけが響く。

とりあえず寝かせるか、と褥の中央に子供を寝かせ、自分は褥と床半分半分の所に寝る。


忍の自分に眠気がそう簡単にくるはずもなく、冴えた目で目の前の子供の顔を見つめた。

ふと、翁がやっていたように自分も子供の頭に手を置いてみる。

梳くように髪を撫で、まだ濡れている睫毛や瞼、頬にも手を伸ばす。

すぐ湿る自分の指先を眺めながら、また子供の顔に目を向ける。


なぜ泣いたのだろうか、この子供は。

それも自分と翁を見た途端。

それにあの時、声を発した。


か細い声で。
幼い声で

すがるように、今にも消え入りそうな声で、「ふーま」と己の名を呼んだ。


掴んでやりたいのに、伸ばされた両手が遠くて。

でも掴んだだけでは何か足りなくて。

すぐさま掴んで抱き締めた。

それでも何か足りなくて、力強く抱き締めた。

そうしたらなぜか子供も力強く抱き締め返してきて、何かが満たされた。


満足とまではいかないが、何かがいっぱいになった。


その何かが何なのかは分からない。

ただ何かが満たされたのは確かだ。


天井を仰ぎ、息を大きく吐いた。

気付けば、小さなもみじのような手は着物から外れていた。

だが、そこから動こうとは思わない。

この子供の傍から離れたくなかった。


(己も大概理解出来ん)


だが理解しなければならない。

少なからずこの子供を理解するには必要だ。


…いや、必要ではない。


自分はただ、知りたいのだ。

この子供がなぜ泣いたのか。
なぜ声が出るようになったのか。
なぜ自分の事を好意のこもった目で見るのか。


理由によっては始末しなければならない。

この細い首を、絞めるか、折るか、切り裂くか。

どちらせよ、結果的には殺さなければならない。


ただそう思うと、痛む。


胸の中、奥深く。

息が詰まり、鼓動が早まり、眉に力が入る。

心の臓を鷲掴みにされたような鈍痛が走る。


知りたいのだ。


このような気持ちにさせる何かを。


理解すれば知れるなら、努力しよう。
必要でないと捨ててきた物達の中には、何か大切な物があった気がした。



そこまで考えて、瞼が降りてきている事に気付く。

うとうとと意識が微睡む中、辺りの気配を探る。

翁が気を利かしたのか、忍すら居ない。

これなら寝れそうだと、最後に子供の髪を一撫でしてから瞼を閉じた。


この子供が起きたら、しっかり相手をしよう。

そして聞いてみよう。
なぜ泣いたのか。


そう決めてすぐに、意識はすとんと落ちた。



 

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