■ ニヤニヤ



くーくーと漏れる寝息が聞こえてきて、よいしょと抱き直す。

…翁、そのニヤニヤした顔を止めて下さい。


「寝たか」


その言葉に子供の顔が見えるように少し屈み、後ろを向く。

早いのぅ、子供よのぅと才蔵の頭に置かれた皺くちゃな手に、規則正しい寝息を立てている腕の中の子供。

まるで門の上から見ていた家族のようだと思う。


頭から手が退き、また元の姿勢に戻れば寝かせてやれと言われ、片腕で抱えたまま部屋の襖を開けた。


子供の部屋だと言うのに遊び道具も無く、あるのはほぼ空の箪笥と褥、小さな台。

その上には湯のみと急須が置かれているだけだ。

掛け布を捲り、寝かせようと体から引き離した。

のだが。


「…?」


くんっと何かに引っ張られ、見れば小さなもみじのような手。

それが自分の着物の一部を掴んでおり、外そうにも外れない。


どうしよう、と助けを求め横で「どうした?」と覗き込んでいる翁を見た。


「………」


だから翁、そのニヤニヤした顔止めて下さいって。


小太郎が少しじとっとした目、というか雰囲気で見つめていれば、すまんすまんと笑う氏政。

分かってくれたなら良いが…とその雰囲気を止めた小太郎だったが、目の前の人物は喰えない人であった。


「共に寝るが良かろう。 才蔵も喜ぶぢゃろうしの」


「!!?」


氏政の言葉にあからさまに慌てる小太郎。

それもそうだ、自分はこの人物の傭兵なのだ。


お世辞にも、強いとは言えないこの主。

他国の忍になんぞ襲われたら瞬殺されてしまいそうだ。


「………っ(フルフル)」

「なんぢゃ、風魔。 主の言う事が聞けぬと言うのか」

「!(ブンブン)」

「それならば今からお主に休みを出す! 存分に休むが良いぞ!! ただし才蔵が起きたらしっかり相手をしてやるのぢゃぞ! 良いな風魔!」


言い終わると同時にスパァンと襖を閉められ、逆にその音で子供が起きるのではと心配してしまった。


 

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