■ 転びます
ビタンッ
「っ!!?」
見事につんのめり、顔面から床にダイブした。
これにはさすがの小太郎も驚き、固まってしまい、走り出して受け止める事が出来なかったのだが、気になる事がある。
この子供は自分が来る事に気付いていた。
たしかに屋根裏を通って付いて行くと氏政に怒られる為、下の廊下を普通の下男を装って歩いていた。
足音も鳴らしていた。
だが、自分が出た角と才蔵が居た部屋の縁側までは、およそ百尺(30m)以上ある。
気配も氏政に怒られない程度に消していたはずだ。
それなのに。
来る途中、直前に誰かの意識がこちらに向いているのに気付いた。
この雰囲気は感じた事が無い。
他国の忍か。
この先にはあの子の部屋があるし、今は氏政も居る。
何かあっては困ると氏政にも伝え、自分が前を歩き先にその角を行ったというのに、そこに居たのは赤目の子。
自分の事を目に入れるなり血相を変えて立ち上がったのだがつんのめり、両手を投げ出し手拭いを叩きつけるように倒れた。
まさか会ってそうそう転ばれるとは思わなかった為受け止める事も出来ず、ビタンッという痛そうな音がし、その場が静かになる。
氏政も、目をぱちくりとしていた。
「……ッ…」
一方、晃樹は眉と唇を歪ませ、必死に堪えていた。
ツンとした鼻の痛みも痛いし、顎も額も打ったし、もう色んな意味で痛い子だよ俺。
会えたのは嬉しい、けどさよならされるのは嫌だ。
おまけに転んだ所見られて恥ずかしいし、無言が痛い。
大丈夫大丈夫と励まして床に手をつき、前を見る。
固まってこちらを見る風魔さんやじぃちゃん見たら、やっぱりじわりじわり目が潤んできた。
やっぱ嫌だ。
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