■ 発声練習
「ぁあー、ひー、ひーっ、ぃい〜!」
んー…やっぱりうまく出ないな。
あ、どうもこんにち、じゃなかったおはようございます、晃樹こと才蔵です。
ここ小田原城に来て早くも一ヶ月とちょいちょい経ちました。
腹の傷もだいぶ癒えて、部屋の前の縁側と厠までの道をゆっくりでなら歩いても良い許可が出ました。
リハビリ、リハビリ。
で、今何してるかって言うと、発声練習!
いやね、やっぱり喋れないってのは結構不便なモンで。
風魔さんとのジェスチャーやり取りもゲームみたいで面白いんだけど、ぶっちゃけ伝わんない時も多いんですよ。
風魔さん、なんかどっか感情抜けてる所あって、普通の人なら分かる事が見当違いの事繰り出してきてくれまして。
たとえば厠どこか知りたいから聞こうとしたんだけど、なぜか両脇に手を入れられ持ち上げられ、高い高いのままステイ。
ああ何? ここで漏らせって?
我慢しまくって体カッチンコッチンになって泣きそうになってる俺を見た女中さんが「あらあら大変」って厠に急いで連れて行ってくれました。
いや本当にあの時は駄目かと思った。
男の尊厳と初キス失った次は人としての尊厳失うかと思った。
まあそんなこんなで楽しくやってるんだけど、やっぱり世話になってる人達くらいは名前を呼びたい訳で。
だって俺の名前呼んでくれたのはこの人達しかいないしね。
あの人達、結局俺が目開けるまでは双子だったけど名前どうするって楽しみにしてくれてたのに目開けたら鬼子としか言わなくなったし。
最後に「才蔵にしよう」って言ってたから多分俺の名前才蔵であってると思うし。
てか、勝手に頭ん中で才蔵って変換しちゃってるんだけど、大丈夫だよね。
話ズレたけど結局は呼びたいんです、俺が。
でも風魔さん危ないな〜、うっかり「父さん」って呼びそうで危ない。
北条のじぃちゃんはもう俺に「じぃと呼ぶのぢゃぞ、才蔵。 良いな、じぃぢゃぞ!」って暗示掛けてるからじぃちゃんで決定。
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