■ 自己紹介



(あれ、何で出ないんだ声? 力入んないし。 アレか? 全然喋んなかったのにいきなり叫んだから喉潰れたか?)


大人二人が盛大に重く捉えている中、当の本人はあまりに楽観的過ぎていた。


もとが平成の現代人。
平和な考え方という訳ではないが、まぁなんとかなるだろうとそんなに重大視していない。

なるようになれ精神である。


(でも名前は教えないとな〜)


結局“さいぞう”という名前を言う事にした晃樹は、小太郎をじっと見つめる。


それに気付かない程小太郎も鈍くはなく、すぐに気付いて晃樹の方に顔を向けた。

分かれよ、分かれよ、と祈りながら一文字一文字紡ぎ出す。


「“さ” “い” “ぞ” “う”」


さぁどうだ! とキラキラした目で小太郎の見えない瞳を見つめれば、小太郎は少し考え込んで、晃樹と同じく口だけで言葉を紡ぎ出した。


「“さいぞう”?」

「っ!!」


紡ぎ出された言葉に、何度もコクコクと頷く。


やべえ、忍やべえ! 風魔やべえ!!


晃樹の中で風魔尊敬度が着々と上がる中、小太郎の中でも晃樹の小動物的愛らしさがグングンと急上昇していた。

わしゃわしゃ撫でたり、ぎゅむっとやりたくて堪まらず、うずうずとする体を抑えるのに必死だ。


一方、そんな音の無いやり取りなど分かるはずもない氏政は、疎外感を感じていた。


「何ぢゃい風魔! ワシにも分かるよう説明せんか! 二人だけで話し合いおって!!」

「…!(ハッ)」


拗ね気味にぷんすか怒る氏政にようやく気付いた小太郎は懐から紙を取り出し、サラサラと名前が“さいぞう”だという事を綴る。


晃樹にもその文字は見えたのだが、みみず文字が読めるはずもなく「なんじゃありゃ」となっていた。


紙を読み、名前が“さいぞう”だと分かった氏政は、「そうか“さいぞう”というのか」と笑いながら晃樹の頭を撫でる。

懐かしいその感触に若干呆けた晃樹と、氏政に先に撫でられショックを受ける小太郎。


しばらく小田原城が賑やかになりそうだと予感する氏政だった。



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