■ 声の異変
「童よ、名はなんと言うのぢゃ?」
包帯を変えた後、布団の上にちょこんと座る晃樹に氏政は質問する。
遠慮がちにちょこんと小さく座る様が、愛らしい。
まぁそう思っているのは小太郎も同じだったのだが、一方で晃樹は悩んでいた。
言う言わないの問題ではなく、どちらの名前を言うか。
どうせ親も居ない事だし、晃樹と名乗っても構わないのだが、やはりこの時代が風魔が居る時代…つまり戦国時代だと言うのならかなり異質な名前になるのだろう。
親の名前も字、分かんないけど“またきち”と“おふゆ”って名前だったし。
だが、こちらの名前…たしか“さいぞう”って名前らしい。
“さいぞう”……。
“才蔵”しか出て来ないや、当て字だけど。
「 〜〜っ!?」
「? どうした。 名が無いのか?」
ひとまずは“才蔵”で良いかと声に出そうとすれば、出て来たのは空気の音だけ。
名は無いと言う言葉に、フルフルと頭を振った。
何で出ないんだ!?
喉を押さえ、口をはくはくと動かす子供に氏政と小太郎は目を見合わせ、悟った。
声が出ないんだ、この子供は。
口を動かしているし、困惑している事から最初は出ていたんだろう。
恐らく、刺された時の精神的な物の可能性が高い。
風魔の報告では口減らしの為に殺されかけたと言っていた。
化け物と罵られている事からも、恵まれていなかったのだろう。
腹を診る為に脱がせた時に見た、痣。
体は痩せていた。
もっと極端に言うならば、意識が回復している事事態が不思議なのだ、この子供は。
死んでもおかしくない量の血を流しておきながら、尚もこの生命力。
それも村人にとっては不気味であったのだろう。
殴っても殴っても、次の日にはケロッと回復していては気味が悪い。
極めつけにこの容姿。
瞳の色は、戦の終わった場でよく見る色だ。
乾いた濃い血の色。
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