■ 思うこと
風に乗って届く血の臭い。
たまたま今日は非番だった。
あの翁にいきなり「休め!」と城から放り出されたのだ。
戻ろうとしてもそれを制され、黙って入れば分からないだろうと城に侵入すれば、なかなかどうして目ざとく見つけられ、外に出されてしまう。
仕方無く城下に居たのだが、仕事が無いという事は性分に合わず、自主的に北条の地を見回っていた。
族や、敵国の忍を片付けたりしながら、いつもは遠過ぎて目の届く位置に居ない領地に行く事にする。
その地に向かうに連れ、その領地の異常さに気付く。
人が少ない。
道は荒れ、作物は枯れ、村人は痩せている。
典型的な飢餓だ。
これは早く翁に知らせなければ。
飢餓に犯された村は必ずと言って良いほど争いが起きる。
口減らしは分かるが、誰を殺すかで争いが起こり、結果的に村が滅びてしまう。
そうして滅びた村をいくつも見た、最悪の場合は、国まで。
そう思い、城へ戻ろうとした時に、血の臭いが漂った。
常人には分からないだろう臭い。
誘われるかのように、足がそこへ向かった。
村の片隅に、新しい血溜まりを見付ける。
遅かったか。
そう思った時、数人の男達が息を切らして走って来た。
それを村人数人が取り囲む。
「どうだ、捨てて来たか」
「ああ、ばっちりだ。 しかしあのガキは気味が悪い」
「あのガキ、腹を刺されたってのに、まだくたばらねぇ」
「まるで化け物だな」
「気持ち悪い」
交わされる言葉に、思わず眉に力が入る。
子供を、刺したのか。
まだ死んでいないのを、残念がる。
化け物と罵り、気持ち悪いと。
自分の事は被害者のように、してきた事さえ悪いと思わないのか。
…今ここでこの村を消してしまおうか。
どうせ飢餓で保つかどうかも分からぬ村、消えたところで…。
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