■ 思うこと
自身は傭兵だ。
傭兵なのだから、仕事は完璧にこなして当たり前。
失敗すれば、ただの用無しに成り下がる。
そうして行くうちに、気付けば風の悪魔だ伝説だのと言われる様になっていた。
別に仕事をしただけで、こんなに言われる事はしてないのだが。
仕事の出来・成功率が一番のこの仕事は、なかなか自分に向いていたと思う。
が、また同時に、もしかしたら自分も普通の一般的な…そう、農民と言われる生活を送り、戦はあるものの比較的平和に生きていけていたのかも知れないとも思う。
特に、最近勤めている北条の地を見る限り思う。
傭兵の為、多くの大名が治める地を見てきた。
しかし、ここ小田原は群を抜いて平和な土地だと思うのだ。
全ての大名に仕えた訳ではないから、確実とは言えない。
だが、良い場所だという事は分かる。
傭兵はあまり良い待遇をされない。
それは過去の経験からして分かる事。
北条も良く思ってない者も多い。
だが、それを翁は笑って気にするなと、あやつらは後で減給だと言うのだ。
おまけに菓子を食うか? や、ぎっくり腰だから負ぶってくれなど、戦の関係の無い命が多い。
だからだろうか。
栄光門から城下の町を眺め、笑い合う人を、家族を、恋人を、羨ましいと思うようになってしまった。
もとより、忍に“思う”などという事はあってはならないはずなのに。
無かったはずの物がひょっこりと顔を覗かせる。
忌々しく、憎々しく、鬱陶しく、愛おしい。
邪魔で、不必要で、不便な物。
便利で、必要で、欲しくてたまらない物。
自分自身が心境の変化に戸惑っていた時にそれを見つけた。
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