■ 捨てられ



まず一番最初に目に入るのが、草。

もさもさと顔に当たり、土と草の臭いが濃い。

それに混じり、自分の腹から流れている血の臭いもする。

空はもう薄暗く、カラスが木に止まるのをぼんやり眺めた。


うわ、最悪。
たしか、この辺は狼が出るからあんまり人が来ない場所だったと思う。
前に来た事があるから分かる。


茱萸(ぐみ)っていう木がいっぱい生えてて、お腹すいて前にそれを取りに来た記憶がある。

襲われましたよ、もちろん。
あの時は本気でヤバいと思いましたよ、えぇ。

茱萸を大量に食べながら摘んで、物音がしたから後ろ振り向いたら狼に囲まれてた。
すっごい怖かった。
必死で木の上に逃げて、足はかなり鍛えられたと思う。


まぁその時より断然ヤバい状況だけどね、今。
大人達は既に逃げたらしく、周りには誰も居ない。

もう目を開けているのも辛くて、閉じた。

辺りの木が風に吹かれたのか、ざわりと騒ぐ。
しばらくすれば血の臭いを嗅ぎ付けて動物が来るよなぁ。
これ以上痛い思いするのは嫌だな、もう楽になろうかなと意識も手離しかけた時だった。

木々のざわめきが強くなり、突風が間近で起こる。

何事なんだと、朦朧とし始めた意識の中、重い瞼を上げた。



そこに居たのは、たぶん…人。


黒い服を着て、翼が生え、まるで風がそこから吹いているみたい。

真っ赤な髪が暗闇に異質に浮かんでいて、なんだかそれを、酷く、綺麗だと思った。


意識はそこで途絶えた。


 

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