■ 悪い方向


気付けばぽろぽろ泣いてて、着物の袖で乱暴に拭く。

若草色の着物は所々擦り切れていたり、泥や垢で汚れていた。


こっちには風呂に入るという習慣が無いのには、ハッキリ言って引いた。

え? 臭くね? 汚くね?

さすがに戦国時代で風呂が無いとはいえ、中身は現代人な俺。

意地でも入りたい。

でもやっぱ無いから仕方なく水浴びしてたんだけど…、この前、村の近くで水浴びしてたら村のガキに服隠されました。

くそガキめ。


そんなふうに山で過ごして、そろそろ夕方になってきた頃、昼のうちに集めていた木の実などを壷の中に隠す。

少し前に冬になって、もともと少なかった食べる物ももっと無くなる。

もともとご飯が少ないのに、真冬になったらそれこそ生きられるかどうか。
あの人がご飯作ってくれるなんてきっと無いだろうしね、それは毎年の事だから。

よく今まで生き残れたなとか、思ってみたり。

ちなみに壷は拾い物です。
家の物持ち出したらきっと、食べ物が少ない云々抜きで殺されるな。
うん。

そんな事をぼんやり思いながら、俺は家へと急いだ。
家に帰っても、どうせまた「熊にでも食われれば良かったのに」という様な目で見られるのは予想してるんだけど、一応は自分の家だから。
帰るべき所のはずだから。

だけど、俺の居ない所で進んでいた話は、そんな予想を打ち負かす程の変化をしていて。

そんな事くらい、予想していたのに。
分かっていたはずなのに、たぶん、心のどっかで信じてた。
もしかしたらって希望を持ってたけど、やっぱり、駄目だったみたいだ。


俺が居て良いなんて。


 

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