木一、当たり前のように同居
3万打リクエストその7
奇数様からケンカップルな木一の同居パロ



















「クソガキが…話くらい聞けってーの!!」
「うるせェな、ちょっと黙ってろ!」
ガシャァーン、と大きな音がしてお洒落なグラスが粉々に砕け散る。一方通行の腕に当たったはずのそれは、白い肌に傷をつけることはできず、重力に従って床に落ちていった。




事の発端は何気ない会話だった。




最近、新しい研究を始めたらしい木原は帰りが遅くなることが増えた。今日は久々に2人で夕食が取れることになって、内心浮かれまくっていた一方通行はそれでもいつも通りにソファで横になっていた。テレビ番組の内容も頭に入ってこなくて、木原が夕食の準備をする音だけに耳を傾ける。
(お湯、湧いた…何か切ってる…冷蔵庫を開けて、缶コーヒー?取ったのか?)
音だけで何をしてるかを想像しながらコーヒーの1杯でも煎れてやろうか、などと考えていた時。
「おい、一方通行…俺の缶コーヒーは?」
「は?ねェの?仕方ねェなァ…」
今日だけは俺が煎れてやる、という言葉を続ける前に木原が口を開いた。


「コンビニ行って買ってきてくれねえか?」


身体が強ばった。木原に他意はないはずなのに、自分の煎れたものよりも大量生産された缶コーヒーがいいのか、と。捻じ曲がった捉え方をしてしまった。
「あァ、そォ、そンなモンの方がイイわけ、へェ…」




たったこれだけのこと。くだらないことこの上ない。




「だーかーらー、そうじゃねえって言ってんだろ…!!」
一方通行だってそんなことは分かっていた。だけど、何となく釈然としないし、勝手なことは分かっていても寂しかったのだ。ただでさえ会える回数も減って、会話する時間もなくなって、やっとゆっくりできる日が来たというのに。
「今更、ンなこと聞きたくねェよ!」
自分でも馬鹿馬鹿しいとは思っていた。それでも泣きそうになるくらいには、ショックだった。
いかにも面倒だという感じで木原が溜め息をつく。怯えるように一方通行が下を向いた。そうしたら、瞳に溜まっていた涙がこぼれ落ちてしまった。フローリングに落ちたそれは小さな音をたてて弾ける。それを見てしまったら一方通行は歯止めが効かなくなるし、木原は柄にもなくうろたえるし、この場の空気は最悪だった。
「泣くんじゃねえよ…」
「だっ、て…」
理性のような、自制心のような、そんな何かがぷっつりと切れてしまった一方通行は自分の本音を喋り出した。何も包み隠さずに、思ったことをそのまま。


「久々に…俺が寝る前に帰ってきて、一緒にいれて…何か、してやりたくて…それなのに、お前は…俺より、」


表情を変えずにそれを聞いていた木原はまた溜め息をついた。呆れられた、迷惑がられた、嫌われた、ネガティブな言葉ばかりが一方通行の頭の中を巡っていることも知らずに木原の手が震える肩に置かれた。少ししてから右手で手触りの良い髪をぐしゃぐしゃ、と撫でてから、顔を合わせずに呟く。
「一方通行の煎れたコーヒーが飲みてえなぁ…」
わざとらしいその言い方が気にならないと言ったら嘘になるが、今はそんなことより、なぜだか早く行動しなくてはいけない気がした。
「飯、食ってからな…」
結局、木原の手の中から離れたくはなくて、頭を撫でられる心地よさに目を瞑った。ふわふわする気持ちのまま涙が止まったら夕食の手伝いもしてやろうなんて普段ではありえないことを考えていた。ただ、もう少しだけこの暖かい時間を。
うっすらと開いた視界の隅に映ったフローリングはもう乾き始めている。




20120524THU


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