木一、モブ一、R-18
一通さんがビッチ




















一方通行は『売り物』として扱われた。他人から酷使される種類のものでなく、自分から望んで『陳列棚』に並んだ結果だ。しかも一方通行のいる『売り場』の中で彼の『売れ行き』が一番いいのだから尚更たちが悪い。第一位という名前も自分の持っているものも全て使って『買い手』を満足させるだけの力に長けているのだ。真っ白な肌や、手触りのいい髪の毛、小さく整った顔に華奢な身体まで、何もかもが『商品』としてなら一級品。一方通行はそれを自覚している。使い方も上手い。それだけで『需要』は勝手に伸びていった。
「なァ…、やめろ、って…言ってンだろッ…!」
更に相手の『好み』を見抜く勘も鋭い。今回の相手は、抵抗する相手を無理やり組み敷くなんて馬鹿げた体験をしたいらしい。馬鹿げていると分かっていながら一方通行はそれに応える。それが仕事だという理由もあるが、そもそも快楽が得られるのなら何だった構わなかった。適当に抵抗しながら、それでも刺激される性器は反応して、相手は自分を支配している感覚に酔う…らしいのだが、一方通行には理解できない。自分を買って、汚したいだけ汚して帰るゲスの気持ちなんて分かりたくもないと思っているのだが。
「ほら…入っちまうぞ?」
「…やっ…、めろ……は、…ンンッ…!」
投げかけられた声は低い声で、どう間違っても女のそれではなかった。一方通行が『売られている場所』はそういう場所なのだ。勃ち上がって質が増した男の性器が、割とゆっくり一方通行のアナルにねじ込まれる。無理やり、という設定であっても十分にほぐされていたから痛みは感じなかった。コイツは『表』に出たら優しい人間なのかもしれないと一方通行は思った。妻、もしくは恋人に対して優しすぎるから、こんな場所まで来てストレスを発散しているのかもしれない、と。だからと言って特に感情移入はしない。ただ一瞬、身体を繋いでお互いの欲を満たすだけの金銭的な繋がり。乾いたことを考えていた一方通行の頭に直接響くような快楽が襲う。そして、耳元まで近付いた男の口から粘り着くような気色の悪い喘ぎ声が聞こえた。これされなければ最高の仕事なのに、と一方通行は心の中だけで嫌味を吐き捨てた。そう思いながらも細い喉から絞り出すように、悲鳴にも似た嬌声を発して、直後に白濁した欲をぶちまけた。




長いような短いような時間が経つにつれて、一方通行の身体は都合よく作り替えられていった。誰に何をされてもそこから器用に快楽を拾い上げて、自らの欲求を確実に満たせるようになったのだ。それはとても便利なことだとは思ったが、そんな自分が大嫌いで仕方ない。誰からも汚されていく自分の身体がこの世界で何よりも醜いもののようで、腐敗しているように見えた。それでも鏡の中の自分は傷一つない綺麗な皮を被っている。




「で、何でテメェがこンなとこにいるンだよ」
「いちゃ悪いかよ。っつか、こっちの台詞だ」
今回の一方通行の仕事相手は見覚えのある人間だった。かつては自分の能力開発にも携わっていた柄の悪い研究者、木原数多だ。仕事だということも忘れてあからさまに嫌そうな顔を向けると、木原も木原でわざとらしい溜め息をついた。
「もっと可愛げのある顔はできねぇのかよ」
「相手がテメェじゃあな…」
木原の目線のやや下から一方通行はその顔を覗き込んだ。相変わらず眉間に皺を寄せた険しい表情をしているが木原の頬に触れる伸ばした手は優しく遠慮がちだ。白くて小さめの手は刺青をなぞるようにゆっくりと動く。それに木原の節くれだった手が重ねられる。憎しみの視線をぶつけ合いながら、それでも慎重に、相手を傷つけないように、一方通行の身体は押し倒される。触れ合っていた手は離れて、丁寧に上着を脱がしていき、上半身が露わになる。薄い桃色の突起に舌を這わせると一方通行は目をそらしたが声は出さなかった。
「鳴けよ、一方通行」
「………」
「他の奴にやってるみてぇによ」
「…黙れ。離れろ」
一方通行の手が木原の肩を押す。精一杯の抵抗だったが、もう手に力は入っていなかった。呼吸のために吐き出される息すら色付いて、瞳は少しずつ潤んでいる。木原はそれが気に入らない。一方通行が自分の望んだ表情を浮かべないこと、口からは悪態しか出ないこと、そのくせ身体だけは預けてくること、何もかもが許せない。そして、それでも一方通行に対して強引になれない自分自身が何より腹立たしかった。辺りを漂う空気がやたらと冷たく感じた。ありもしない傷口がうずく感覚さえした。その痛みを押し付けるように木原は一方通行の唇に自分のそれを押し当てる。どうにも気分がのってこない。それは、誰かのせいかもしれないし、誰のせいでもないかもしれない。それすらも分からなくなっていた。薄く開いた唇の間から確かめるように舌を侵入されると、一方通行は先程まで木原を拒絶していた手で服を掴む。それがまた木原の冷静さをぐちゃぐちゃにかき乱した。それでも、ギリギリのところで立て直す。押さえきれなかった涙が瞼から零れたのを見ていたように木原がゆっくりと離れていく。混ざり合った唾液が名残惜しそうに口から口へと糸を引いていたが、やがてそれも落ちていった。
「感度が高くて清々しいじゃねぇか」
「…るせェ、」
「あの頃とは大違いだ」
「……いつまでもガキ扱いしてンなよ」

木原は研究所にいた頃の一方通行しか知らない。一方通行もそうだ。それなりに時間は経ったが、お互いに一度も会うことはなかったし、二度会わないと思っていた。だから今日こんな場所で会ったのは偶然にして最悪の出来事だったのだ。少なくとも一方通行にとっては。

「あーあっ。俺は、こんなとこにいるっていうテメェと遊びに来てやったんだぞ、一方通行くん?」
「なに、なンだよ、それ」
「だからさ、客だ、客。しっかり相手しやがれ」
「あァ…そっか、客…客ねェ…」

自分に言い聞かせるように呟いた一方通行は、直後、木原に噛みつくような荒々しいキスをした。舌を噛み千切るような勢いで、突き飛ばすように唇を離した一方通行はそのままの勢いで木原のズボンのベルトを引き抜いて性器を露出させる。そして根元から先端までをゆっくりと舌でなぞり、口を大きく開いてくわえ込んだ。唾液を絡ませてくちゃくちゃと卑猥な音をたてながら性器に夢中で吸い尽く一方通行を木原は呆然と見ていた。まだ射精もしていないのに唾液と先走った液体で既に滑りのよくなっている性器を指先でなぞった一方通行の手が自分の衣服を全て脱がしていく。
「何やってんだよ、ガキにそこまでは頼んでねぇぞ」
「しごと、だからな」
しごと、という言葉を強調するように言った口がかすかに笑みを含んだ。隠すものが何もなくなった真っ白の肌が木原の身体を跨いで、アナルに性器をあてがう。
「せめて慣らせよな…」
「いい、慣れてる」
わけわかんねぇよ、という木原の言葉を聞きもせずに一方通行はゆっくりと腰を落としていく。苦しそうでありながら、それでもどこかで快楽を得たような自分の息が一方通行を苛立たせた。ゆっくりと繋がっていく身体は結合部から熱を帯びてどうしようもなく、いやらしい。

「は、はっは…気持ちいいっ…」
「ただの淫乱じゃねぇか」
「相性、いいンじゃねェのっ…?」

一方通行は深く繋がった部分に目をやりながら、ゆっくりと上下に腰を動かし始めた。徐々に早くなった動きに合わせるように、吐息は浅く甘く淫らなものになっていく。口からは抑えられなかった唾液が溢れ出して、ともすれば朦朧としているように見える瞳にこれでもかと涙をためた姿は本当にタガの外れた淫乱そのものだった。そんな一方通行の華奢な身体を木原は無造作に抱き締めた。バランスを崩しかけた一方通行はすがりつくように両腕を木原の背中へと回したが、その直後、身体に今まで以上の刺激が襲う。木原が腰を突き上げたのだ。

「やっ…ァ、あァっ…!?」

反射的に木原の上着を握り締めた一方通行はされるがままになっていた。不規則な短い息は木原の耳元で繰り返されて、それが更に欲をかきたてた。

「ンっ…あ、うァ……きもち、い…?」
「あぁ?…っんだよ…!」
「いい、よなっ…そォいう、身体…なンだ、し…ひ、あァっ…!」
「なん、の…話してんだ…?」
「テメェじゃ、なくてもっ…イけるって…う…あ、あァあっ!!」

決してわざとではなく、それでいてわざとらしい嬌声と共に、一方通行と木原は同時に果てた。整わない呼吸を必死に繰り返しながらぐったりともたれるように一方通行は身体を預け、腕は力を失った。体内からは精液が溢れ出し、少し動くだけで水っぽい音がして、一方通行の理性を蝕んでいく。
「木原くゥン…?気持ちよかっただろォ…俺の、身体ァ…」
舌が回らない酔っ払いのような話し方で一方通行は続ける。
「その為の身体だしィ…俺もよかったし…便利だよなァ」
「褒めてやりゃあいいのかよ?」
「いいや」
きっぱり言い捨てた一方通行は立ち上がって白いタオルケットを肩から羽織った。どこを見ても真っ白な姿は神秘的とも形容できそうだが、そう言うには身体も心も汚れすぎていた。

「きったねェ身体だろ?テメェのせいとは言わねェけどな」

それは姿形が美しくないとか、今の行為のせいで精液が染み着いているとか、そういうことではなく。

「こンな身体で全身を触られた気分はどォよ?吐き気しねェ?」

それは相手に対する気遣いではなく、自分に対する罵倒で。

「気持ち悪いだろ―――オ、イ…!」

木原は一方通行の話など聞かずに白い身体を優しく撫でた。ピクンと反応する一方通行の輪郭をなぞるように掌を滑らせて唇の形を確かめてキスをする。

「さわン、な……離しやがれっ!」

木原は聞かない。白くサラサラした髪をかきあげながら後頭部に手をそえて、自分の胸に一方通行の顔を押し付ける。

「や…め、やだ…は、なれ…ろ…」
「別に気持ち悪いなんて言ってねぇだろうが」
「うるせ…さわン、な……触ンなァ……」

一方通行はほとんど泣いている声で抵抗らしい抵抗もできないまま木原の腕の中で震えていた。

「俺はっ…!お前に触られる資格なンか…ねェンだよ…!!」
「あ?何言ってんだ?」

支離滅裂な、それでもたった一つの想い。

「こンなに…汚れちまった身体で、」
「おい、一方通―――」

木原の言葉も聞かない一方通行は絞り出すような声で叫んだ。




「お前にっ…、優しくして…欲しい、なン、て…言えるわけねェだろっ!」




木原の身体を強引に突き飛ばした一方通行は泣いていた。ぼろぼろと大粒の涙を零す姿は子供のようで、嗚咽を抑えることも考えていない。ただ、言いたいことを言い切って、泣いていた。


優しくされたくて、されてはいけなくて。


期待と矛盾が一方通行の冷静さを奪って、回転の早い頭を完全に空回りさせていた。

ぐちゃぐちゃな思考回路のまま自分のことを罵倒して、優しさを拒絶し続けた。それが苦しいことも望んでいないないことも分かってはいても、期待をして裏切られる恐怖だけが優しさから逃げ続けた。ただ、一人にして欲しいと、もう見捨ててくれと、壊れたコンポのように言い続けている。

木原は何も言わないで一方通行の身体を抱き締めた。白くて弱々しい腕はその優しさを一層拒み、細い喉は涙ながらに自分の理想を砕こうとしていた。それでも、更に強く包み込んだ身体が、耳元に口を寄せて囁く。




「やっと見つけたんだから、あんまり自分勝手なこと言うんじゃねぇぞ」




しばらく一方通行は目を見開いて涙を流し続けた。こんな自分を、探して見つけ出してくれる人がいることに驚いた。それが木原だったことが嬉しかった。少しだけなら、期待してもいいのだろうか。手を伸ばしてもいいのだろうか。そして一方通行は、ゆっくりと、すがりつくように震える両腕を木原の背中に回した。




20111012


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