木一、ナチュラルに同棲
「Welcome my home」
自分の家に一方通行を招いた木原がドアを開けて言った言葉だった。研究所との契約をほとんど一方的に切られた子供を野に放つこともできなかたったのか、連れて帰ってきてしまったのだ。その姿に他の研究員は揃って目を丸くしていたが、そんなことを気にする木原数多ではない。むしろ気にしていたのは幼い一方通行のほうで、白衣の裾を摘まんで終始俯いていた。
「俺なンか、連れてきて良かったのかよ…」
「あ?俺のやることに文句あんのか?」
「…別に、………ありがと」
その言葉に対して返事はなかったが、安心したのか小さな手は白衣を手放した。無遠慮に家の中に飛び込む姿は強力な能力者である一方通行でも、まだまだ小さな子供なんだと自覚させられる微笑ましいものだった。そして、振り返って不思議そうな顔をする。
「うぇるかむまいほーむ、って何だァ?」
恐らく英語であることも理解できていないのだろう、イントネーションがおかしい。そんな無邪気な少年の頭を撫でて木原は普段あまり見せない優しい笑みで答える。
「ようこそ、って意味だよ、クソガキ」
それからの一方通行は木原の家に来るたびにその言葉を繰り返した。何度も、何度も言った。成長して天真爛漫な姿を見れなくなった頃、いつの間にかその癖も抜けてしまって随分と無愛想になったな、と木原は口には出さずに思う。しかし、無遠慮なところは今も昔も変わらないようで、靴も揃えずにリビングへと進んだり、勝手に冷蔵庫の中に缶コーヒーを詰め込んだりしている。どうやら、またコンビニで買い溜めてきたらしく、他のものを鬱陶しそうにどけながら同じデザインの缶を並べていた。
「Welcome home、一方通行」
以前とは少し違うその言葉に目に見えてに反応する一方通行。そして、目も合わせないで出てきた言葉は、以前と同じ不安だった。
「俺なンか、置いといてイイのかよ?」
「…ハッ、俺の勝手だろうが」
「…あァ、そォ」
一方通行の小さな微笑みに気付いているのかいないのか、満足そうに目を細めた木原は煙草に火をつけた。冷蔵庫のドアを閉めて、ビニール袋を丸める音を聞きながら昔のことを思い出してみる。
木原が一方通行を初めて家に連れてきた日のこと。
20120317SAT