上一←垣
ていとくんが病んでます




















薄暗い部屋のベッドで膝を抱えながら小さな声が絶え間なく紡がれていく。誰にも聞こえないようなそれは扉の開く音にかき消されていった。


「垣根…いるンだよな…?」


控えめな声はこの部屋の中ではいやに大きく聞こえて、垣根の脳へとダイレクトに衝撃を与える。それは、今の今まで待ちわびた人物のものだったのだから。
「あくせら…れーた…」
ぼんやりとした意識の中で真っ白な身体が目に入る。華奢であまり高くない身長の少年は苦笑いを浮かべながらベッドの上に腰を下ろした。ふらり、と空気に流されてきたかのように弱々しい挙動で垣根の手が一方通行の二の腕を掴む。そのままもたれかかってキスをしようとする。突然のことのように見えるが、それが当たり前だというように時間が流れていく。無茶苦茶に舌を絡め合って、ただ相手を求める垣根は端から見れば異常なのかもしれないが、一方通行は不満な顔一つしないでそれを受け入れた。


「…なァ、もォイイだろ…じらすなっての」


口の周りをどちらのものかも分からない唾液で汚しながら、女のするような表情の一方通行が自分の上着を少し捲ってみせた。不健康に白いくびれをチラつかせながら赤い瞳を細める。今まで虚ろだった垣根の視線が定まった。その直後、テーブルの上の携帯電話が鳴った。部屋に来たときに一方通行が置いたものだ。画面を確認するとそこには今1番思い出したくなかった人物の名前がハッキリと表示されていた。
(上条…どォせ、どこにいるかとかそンなンだろ…)
「電話なンてどォでもイイから早くしろよ」
適当に用件のたかをくくった。鳴り止まない着信音を鬱陶しく感じながら前のめりになる一方通行。垣根はその腰を優しく撫でながら今度は触れてすぐ離れるようなキスをする。さっきとは一変した感触に思わず赤面してしまいそうな気分だが、恋人を甘やかすような態度をとっていながら瞳の奥にはギラついた光があるのを一方通行は知っている。それにどちらかと言えば愛人のほうが合っているだろう。

(上条、わりィ…)

心の中だけで自分の恋人に対して小さく懺悔した。それでも今ここから離れてしまうことは絶対にしない。一方通行は何度も頭の中でそうしたら楽になるだろうかと考えたが1度もできなかった。そんなことを考えているなんて夢にも思わない垣根が手触りのいい白髪を撫でる。


(俺がいないと…コイツは…)


赤い瞳が瞼に隠れる。そこに見えたのは自分を抱きしめて話さない垣根と、その光景を見て軽蔑し去っていく上条の姿。




20171021


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