上一、雰囲気だけ
時系列は原作3〜5巻の間って設定
設定なしでも読めるかも



















細身で背は決して高くはなく、加えてかなりの色白。髪と肌の透き通るような白は人間のものではないようで不気味な印象を与える。唯一、色の違う瞳は充血なんかの比ではない程の赤。
職業は高校生ということになっていながら、年齢や誕生日などの情報が一切分からない上に性別までもが曖昧な人間。本名不明の超能力者は、自らの代名詞とも言える強大な力の名前で呼ばれていた。
それが、自分のこともよく分からない彼のアイデンティティだった。


「一方通行…」


上条の低い声が空気を震わせる。細い手首は何の抵抗もなくただ抑えつけられていた。血が止まってしまうのではないかという程に力任せで強引な行為に一方通行は目を伏せたまま何も言わない。普段の彼なら自分は動くこともなく、ベクトル変換でこの場を切り抜けるのだろうが、自由を奪う上条の掌には超能力を殺すふざけた力が宿っている。しかも、ただの喧嘩なら勝ち目はないような体格差で、それは既に証明済みだ。
「離せよっ…!」
能力が使えないことに焦りを感じて声に出してみるも返事はない。それどころか、更に力が加わっていき、離す気などないと言外に語っているようで一方通行はただ怖かった。能力が使えないことに、こんなにも不安が煽られて身体が震えた。

「これがないと…俺はっ…!」

一方通行の赤い瞳が空中を眺めて揺れた。

超能力の使えない自分に何が残る。
名前さえも失った自分は一体誰なンだ。
こンな自分の存在価値は何だ。
自分は誰だ。俺は誰だ。第一位とは誰だ。


お前は誰だ。


「俺は…」
能力の使えない俺は、一体何のためにここに存在しているンだ。


親も家庭も友達も学校も、名前すら持たない彼のアイデンティティは超能力だけだった。学園都市の第一位に君臨し続けることが、自分が自分であることの証明であると共に他人に必要とされる理由だった。それ以外は何も分からない。
しかし、幻想殺しを前にした一方通行はあまりに無力だ。ただの高校生の掌は不安定で最強のアイデンティティを顔色ひとつ変えずに殺してしまう。
「これじゃ…俺のいる意味が…」
「例えお前が能力を使えなくなったって、俺はずっと好きだよ…一方通行」
月並みなこんな言葉も信じられなくなる程に他人に裏切られてきた一方通行は、まだ震えていた。そして、自分の存在価値を取り戻すべく小さく抵抗する。

「好きだ、一方通行…」
「うる、さ…ィ…」
「俺の為のお前になってくれたら、存在する理由になるだろ?」
「黙れ……離せ、離せ離せ離せっ…!」

強引に上条の手から逃れた一方通行は、両手で目元を隠して泣いていた。幻想殺しから離れて超能力を取り戻したはずなのに、ただ黙って泣いていた。




20120201WED


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テーマ「人外ファンタジー」
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