垣一、またしても豆腐メンタル第一位
少しですが強姦表現が有るのでR-18



















がんっ、がんがんガンっ、がんっ!
と、誰かが垣根の家のドアを借金の取り立てに来たヤクザばりに叩いている。それで目を覚ましたのは真夜中の3時を少し過ぎた頃だった。心当たりがないのでそのまま寝てしまおうと思ったのに、一向に止まない音に苛ついてドアを勢いよく開け放った。
「か、きねっ――」
何も見えないような暗闇の中から白い影が垣根へと倒れ込んできた。その薄さや軽さ、温もりから何から何まで知り尽くしたもので、気付いたらいつものように受け止めていた。

「一方、通行…?」

小刻みに震える肩に手を添えると予想以上に冷たいし、ビクッと跳ねた。ただ外が寒かっただけだと信じたいけど、怯えているようにしがみつくものだから垣根が少しだけ戸惑う。とりあえず部屋の中に入れて暖かいコーヒーを出すと疲れきった一方通行の微笑みが返ってきた。頬に涙の跡が見えるのは、本当に気のせいであって欲しい。垣根の想う一方通行は恋人である自分に対してでも罵詈雑言を吐き捨てるような気の強い奴なのだ。
「なァ、垣根…」
言った直後にさっきまでの微笑みは消えて、青白い顔で口元だけを動かして呟く。


「俺のこと、手酷く犯してくンねェ?」


言って、また笑った。




垣根が動くと固くも柔らかくもないベッドが軋んだ。一方通行の服を捲って肌を撫でると、彼は目を見開いて顔を背ける。やっぱり、何かに怯えるようで垣根の顔どころか身体すらも見ないでシーツに爪を立てていた。その姿を見たら続けられるわけもなく一方通行の薄い桃色の頬に、節くれだっているもののスラリと長い指先が滑る。
「ひっ、……っ…」
「何があったんだ、話せ」
命令口調でありながら、柔らかさのある物言いで、垣根が一方通行に覆い被さるように全身の力を抜いた。触れ合った部分は暖かくて、それなのに芯は凍えきっている。誰に教えられたわけじゃないのに、垣根は漠然とそんなことを思った。
「垣、根……その、」
一方通行にしては歯切れの悪い言い方をして、まるで自分の中で何かを確認するような整理するような間を置いた。更に『嫌いになるなよ』などと今までに聞いたこともないくらい可愛らしい言葉まで添えてからゆっくりと口を開いた。


「スキル、アウトに…襲われた…」


垣根の血の気が引いていく音が聞こえる程の静寂が訪れた。

―――襲われた。襲う。襲撃。

頭の中に流れ込むような聞き慣れた単語の数々は、しかし今の場合は一方通行の言いたいこととは違う。

―――冷たい身体。小刻みな震え。うっすらと見える涙の跡。

そして、何より決め手になったのは一方通行の言葉だった。

―――嫌いになるなよ。手酷く犯して。襲われた。


そこまで理解した上で垣根はようやく頭が熱くなっていく感覚を実感した。その直後に起き上がって一方通行の手首を押さえつけた。何も考えずに叫んだ。
「一方通行っ!」
「や、…ャだ……離せっ…!」
「うるせえ!何ですぐに教えなかったんだよ!!」
「…やめ…ろ……」
閉じきって何も映していないであろう瞳、それでも視覚以外の感覚と記憶のせいで一方通行の涙は止まらなくなった。力を緩めた垣根の両手を逃れて、ベッドの端まで距離を取る。潤んだ声が部屋の中で1人の男の名前を呟きながら謝罪を続けた。止めどなく溢れ続ける涙は頬を濡らして、身体の震えも繰り返されている。
「なぁ、一方通行…今だけ言いたいこと言えよ」
「…っ…ン、う…」
「弱音とか。明日には忘れっから」
少しの間を置いて一方通行の伏せた顔が垣根の肩にもたれかかり、伸ばした手は上着の裾を握り締めた。近付けば近付く程に弱っている学園都市最強。白い髪を撫でる恋人の手にも怯えて小さく口を開いてか細い声が微かに空気を震わせた。
「気持ち悪りィ……感覚が、消えねェ…いっそ……死に、てェよ…っ…」
その声は止まることを知らない悲痛な想いだった。
「抵抗なンか…できなくて……怖くて…情け…な、くて…それに、」
悪ィ、自分勝手なこと言う、という前置きは垣根には聞こえていなかった。だから、この次に言う言葉は鋭くなって突き刺さっていく。


「お前は…来て、くれなかったっ…!」


何回も何回も声に出さずに叫んだ。
スキルアウトに垣根の名前が知られるのは嫌だった。
でも、助けて欲しかった。
この街の第二位ならできると思った。
だけど、それは都合のいい言い訳で。


本当は、他の誰でもない垣根帝督に来て欲しかった。


朦朧とする意識を保つための支えが、唯一と言ってもいい縋れる希望が、垣根だった。
しかし、それは叶わなかった。


「来てくれなかった……来て欲しかったのにっ…我が儘なのは分かっ――」
直後、一方通行の口は垣根のそれによって塞がれた。もっと簡単に言うとキスをされた。身体だけを目的とするスキルアウトに犯されなかった数少ない場所。触れてからすぐに離れてしまう名残惜しすぎる吐息が、唇にかかってくすぐったかった。
「ごめんな」
垣根が言った。自分には今の一方通行の気持ちが分からなくて目を見ることがでできない。
「ン…ごめン……」
謝る立場ではない人間の言葉を聞いていたたまれなくなった垣根は音もしないような優しい挙動で一方通行を抱き締めた。ビクッと肩が跳ねる。それでも細い腕が垣根の背中に回った。離れないように、離さないように、必死に掴んだ上着越しじゃ体温までは分からなかったけれど、確かにそこにある愛おしい温度を求めて。




20120112THU


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