一通さん総受け
普段よりご都合主義度割増
最後は読者の皆様のご想像にお任せします



















場所はとある学生寮。時間は早朝。いるのは上条と一方通行。格好は和服。
「さて…俺はどンな目に合っているでしょォ…か…」
「ん?何、一方通行?」
答えは初詣の準備をしている、でしたァ…。更に詳しく説明すると、上条の学生寮に来た俺が無理やり女物の和服に着替えさせられた上に化粧までされそうになっている。どうしてそうなってるの?と聞かれたら、残念ながら憧れの人物の性的趣向が異常なんですとだけ言っておこう。
「もう時間ないなぁ…」
どうにか化粧は諦めてくれたらしい上条が自分の着崩れた和服(男物)を直したあとに、俺の和服(女物)の襟に手をかける。サイズがぴったりなのが非常に情けないが、黒髪から微かに香るシャンプーの匂いが心地よかったからどうでもよくなってきた。本当にこんな格好で大勢の目に晒されなきゃいけないと思うと憂鬱以外の感情が浮かんでこなかった。とにかく、知り合いにだけは会いませんように、と新年最初の願い事をこんなところで使ってしまう。




知り合いに会わないように、いつもとは違う道を通って、顔だって常に伏せて、上条の影に隠れながら神社まで辿り着いたというのに。
「あっ、すみません。裾、大丈夫で…あれ、一方通行?」
慣れない和服の裾を踏まれて露骨に嫌な顔で後ろを向いたら、そこにはメルヘンな冷蔵庫が放置されていた。こいつ、たまに何の前触れもなく現れるけど、ストーカーの類じゃないよな?あと、裾踏んだのわざとだろ。

「大丈夫みたいなんでーもう行っていいですよぉー?」
「いやいや、迷惑かけちゃったんでー何か奢らせてくださいぃー」

俺にはあまり見せない腹黒い上条が下から覗き込むように少し背の高い垣根を睨みつける。対して垣根は飄々として俺の手なんか取ろうとするもんだから火花が更に激しくなった。喧嘩するならしてもいいから俺を間に挟むのやめてくんないかな。
「垣根くゥン?今日はもう帰れや」
「チッ、あまり納得はいかねぇが、一方通行が言うなら仕方ねぇか…」
ぶわっ、と。6枚の羽を背中に広げながら羽ばたいていく第二位。羽を動かしたときの風を俺と上条のほうに向けたのは演算をミスったからだということにしておいてやる。だから今すぐ着崩れた俺の和服を見てニヤけるのをやめてください。
「いつか殺す…」
ヒーローにあるまじき発言をするマイヒーロー。もう帰りたい。




結局少し離れた人気の少ない神社に移動した俺たちは小さな石段を登ったときに見てはならないものを見てしまった。
「よっ、一方通行」
よっ、ってなぁ、お前…。そこにいたのは紛れもなく木原数多だったのだが、どうしてここにいれのか問われれば頭の上にクエスチョンマークを飛ばす他ない。強いて言うなら神社だから、じゃないでしょうか。とにかく、もう何が起きても動じない自信さえ湧いてくるようなレベルでの衝撃的な出来事だった。

「始めまして」
「は、始め…まして…」
「どうも、一方通行の義父兼性奴隷で――」
「ぎやァァァァあああああっ!!」

何で真顔で馬鹿みたいなこと言おうとしてるんだよ。ちなみに、訂正させてもらうと立場は逆でした。全部、未遂で終わらせましたけど。上条には聞こえなかったらしく首を傾けて愛想笑いを浮かべている。こんなたちの悪い霊体と付き合っている暇はないのでさっさと初詣を済ませて帰るべく小走りで境内を目指す。後ろのほうから放置プレイだのSMだの聞こえてきたが無視して突き進むと、なんとなく不気味な建物が見えてきた。




「趣がありますね…」
「純和風だなァ…」
口々に言ってみるが不気味なものは不気味だ、上条も心の中ではこんなところ今すぐにでも帰りたいと思っているに違いない。
「じゃあ、まぁ…お参りして帰りますか…」
賽銭箱に適当な小銭を投げ込んで鈴に手を伸ばした。

――がらんガランっ、と。

普段はなかなか聞かない音を聞いて両の掌を合わせる。目を瞑って今年2回の願い事をする。薄く目を開いて上条を見ると俺と同じように手を合わせて目を閉じている上に、逆光のせいで神々しくなっていた。いつもと違うから、だから俺は少しだけ格好いいかもなァ、なんて思いながらまた目を瞑ったのだった。




学生寮に帰った俺はすぐに和服を脱いでいつものTシャツに着替えた。途中で上条に襲われかけたりもしたが拳一つで沈めたあとはすすり泣いていた。罪悪感がないと言えば嘘にならなくもない。
「はァァあ…何か今日はすげェ疲れたァ…」
「色んな人に会ったしな」
結局あの後、土御門から冷やかされたりとか、舞夏から男だなんて信じないだとか、青髪ピアスから男装美少女について語られたりとか、妹達の20000号から身体中を舐めるように見つめられたりとか、最終的には黄泉川と芳川に打ち止めに番外個体にまで会ってしまったりとかして、俺の純情が打ち砕かれたりもしたが、何だかんだで帰ってくることができた。
「なぁ、そう言えば一方通行は何お願いしたの?」
「打ち止めが成長しませんよォに」
「ぶ、はっ!?」
上条が飲んでたウーロン茶を吹き出して咽せている。
「おま…嘘だろっ…!?」
「うン、嘘だよォー」
俺がわざとらしく言うと上条は安心したような納得のいかないような微妙な表情をしながら再びウーロン茶を飲み始めた。俺も上条の淹れてくれたホットコーヒーを口に含みながら、小さな神社で心の中だけで唱えた言葉を思い返す。
「本当は何お願いしたんだよ?」
「ンー…」
たとえ上条が自分の願い事を教えてくれても、打ち止めや番外個体にせがまれても、悪いけど最初から教える気などなかった。だって―――。


「願い事は言っちまったら叶わねェンだよ」


上条だろうと打ち止めだろうと絶対に教えてなんかやらない。
この願い事だけは、神頼みになろうと叶えたいものだから。




20120103TUE


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