上一、一通さんが弱っちい



















どうしてこんなことになった、と上条は内心焦りまくる。その目の前には帰ると言った一方通行が玄関に座り込んで小さく震えていた。さっきまで笑い合いながら他愛もない話をして気分よく別れるところだったのに、どうしてこんなことになっった、と1人復唱する。
「一方通行……?」
いつも呼んでいる名前を恐る恐る口にしてみるも返事はない。ただ、すすり泣くよくな声まで聞こえてきた気がするのは絶対に気のせいじゃない。上条は、本格的にまずいことになってきたという自覚と共に、原因を探るべく数分前のことを思い返した。




『送ってくのに…本当に大丈夫?』
『大丈夫だっつの、過保護』
『だって…年末って危ないだろ…?』
『大丈夫だから』
『ならいいけど。今年も終わりか…、そういえば一方通行に初めて会ったの夏休みだったっけ…まだ半年だな。今年も色々――』




あぁ、このあたりだ。何が悪かったのかはよく分からないけど原因は自分にあったらしく一方通行は未だに顔すら上げてくれない。膝を抱えるように座り込んでいて、立ち上がって帰ろうとも、上条に掴みかかろうともせずに、ただじっとしていた。

「一方通行…、何か気に障ったなら言って…?」
「別に…」

一方通行が何でもないようにしたつもりの返事は震えながら冷たい空気に溶けていった。一方、上条は必死に原因を考え続けていたはずなのに、いつの間にかこの1年を振り返ることに頭の中のキャパシティーを裂いてしまっていた。


夏休みに初めて会ったときには敵だった。
その後何度か目撃されてるらしいけど俺は気付かなかった。
次にロシアで会ったときには必死だったのを覚えてる。
学園都市での再開はバタバタしてて俺の家にも招待した。


そこまで思い出してふと一方通行にとっての1年間を考えてみた。どんなふうに春を待って、熱い夏を乗り切って、肌寒い秋の空を仰いで、年末を迎えたのだろうか。どんなことを思って、誰と関わってきて、何を見てきたのか――良い、1年だったのだろうか。


(きっと、俺なんかより色々あったはずだ…)


そう思った直後には、もう上条の腕が一方通行を後ろから包み込んでいた。
「来年はさ、いい年になるよ」
「何も知らねェで、脳天気に言うな…」
「うん、ごめん。でも、」
一方通行の震えを押さえつけるように上条の両腕に力が籠もる。細い身体はしても叶わないであろう抵抗など諦めて、されるがままに温もりを受け止めていた。


「来年は絶対にいい年になる、俺がする」


迷いのない口調でそう言われてしまったから、一方通行が必死に堪えていた涙や声や感情が溢れ出してくる。俺みたいな人間がとか、上条に迷惑かけちまうとか、そんなことを考える余裕もないほどに今までの出来事がフラッシュバックして思い出される。今年と言わず、今日までの人生全てを直に頭へと叩きつけられるような衝撃を受けて、震える指先は上条の服の袖を摘んでいた。

「上条さんは一方通行といるだけで、不幸と戦っていけますから、心配しないでください」

赤い瞳から溢れる雫は白い睫毛を伝って重力に従いながら上条の手の甲へと止めどなく落下していく。それは誰にも拭われることはなく枯れ尽きてしまうまで流れるのかもしれない。
(俺といるだけとか、よくそンな恥ずかしいこと…)
そう思いながらも悪い気はしていない一方通行もたいがい重症なのだ。更にその意見に賛同してしまっているのも、かなり末期症状と言える。

消し忘れたテレビの向こうからはアナウンサーの興奮気味な声が繰り返されていた。

『あけましておめでとうございます!今年はっ、みんな一緒にっ、良い年にして参りましょうっ!!』




20120101SUN


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