木一←上。暗いし誰も幸せになれない。
木原くんの死後のおはなし




















今になって思えばあれは暇つぶしにすぎなかったのだ。ただの恋人ごっこ、無意味な馴れ合い、非生産的な行為。心に留めておくまでもない出来事でしかなかったと、一方通行は自分の中で答えを定めた。心のどこかで自己欺瞞であることは分かっていたが、それを認めてしまっては元も子もないので思い返すのをやめた。

そして、目の前にいる少年に目を向ける。

夏の終わりに自分のことを負かした高校生の背中は今はただ頼もしくて、超能力を殺す右手は繋いだ部分から温もりが伝わってきた。恐怖はすっかり消えていた。もちろん、とある実験から解放してくれたことへの感謝がないと言ったら嘘になるが、一方通行はそれを絶対に口にしない。少年も感謝の言葉を期待しているわけではないから、問題ないわけだが。

「オイ…三下、引っ張ンなっ…!手なンか繋がなくてもちゃンと…」
「………」
「聞いてンのか、テメェ!…上条っ!!」

一方通行が名前を叫ぶと上条はようやく立ち止まり振り返った。少し躊躇ったあとに右手を離すと、行こうかと呟いてゆっくりと歩いて行ってしまった。2人は上条の学生寮へと向かっていた。特に珍しいことではなく、一方通行はよく足を運んでいるのだが途中に上条が迎えにきたのは初めてのことだった。
学生寮に着いたら満面の笑みで出迎えられることが常だったので、一方通行は正直戸惑ったが、悪い気はしなかったというのが本音だった。


それくらいは上条のことが好きなのだ。


2人が学生寮に着いたも、特にすることがないのだっていつものことだ。他愛もない話をして、適当なテレビを見て、たまに上条の宿題を手伝ったりした。それだけのことをしに一方通行は上条に会いに来ていた。なにも不純な下心があるとかそういった理由で学生寮に遊びに来ているのではなく、一方通行はただの気まぐれだと言っていたが、どこまで信じてもいいのか上条も悩んでいるところだ。

「なぁ、ほんとに?ほんとに何もねぇのかよ?」
「だからねェって。自惚れンな」

そう言われたところで上条は信じきれなかった。というよりは、最初から信じようとしていないと言ったほうが正しいのかもしれない。何回も学生寮に訪ねてくる人間に対して人並みの期待をしてしまうのは思春期の男子としては普通のことだと思っている。あわよくば自分と同じ想いを一方通行もしてくれたら、なんて考えていた。




それは、つまり、慕っているということだった。




一緒にいたい、もっと知りたい、抱きしめたい、キスがしたい。上条のそういった感情は全て一方通行に向いている。それでも同性相手にとか、今までにない背徳感とか、多少なりとも罪の意識のようなものは感じていた。一方通行も上条の想いには気付いていたが、気付いていても同情したり惹かれたりはしない。

上条が悶々としながらコーヒーを入れて部屋に戻ると一方通行はテーブルに突っ伏していた。近付かないと分からないくらい吐息は小さい。更に近付かないとそれが寝息だとは判断できなかった。
上条はベッドの上からタオルケットを取って一方通行にかける。もとから白い肌が紅い瞳というアクセントを失ったことによって、より際立っているように見えた。触れたら汚してしまいそうなくらい儚い。それなのに、吸い寄せられている気がする。不思議な感覚のまま、上条はほぼ無意識に一方通行の頬に触れていた。その瞬間、

「き…は、ら……」

上条が話でしか知らない人物の名前が出てきた。既にこの世にはいない一方通行の想い人―――たったそれだけの情報しかないのは、上条がこれ以上を聞きたくなかったからだ。自分に出会う前の一方通行、そして今でも忘れられない相手、上条自身が勝てると思えなかった。それでも強引になってしまえば、もしかしたら形ばかりの関係くらいは築けるのかもしれないが、そんなことはしたくない。だからと言って諦めることもできない。



そんなもどかしいほど報われない2つの想いは、行き場をなくしても尚、消えそうにはない。




20110912MON


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