垣一、どっちも悪くない…のに…



















「お前物欲ねぇもんなあー…」
不意に垣根がそんなことを呟いた。どこの誰に話しかけているのかは部屋の中のもう一人の人物――一方通行が1番聞きたい。しかし、この場には2人しかいないし、垣根がよほどの不思議ちゃんじゃない限り必然的に決まっているのだが。さすがに恋人に不思議ちゃんなんて有り得ないし信じたくない。
「何の話だよ…」
「ん…こっちの話ってことにしとけ」
意味が分からない上に多少腹が立った。ここで手や足が出ないのは一方通行の小さな成長に間違いない。その日は特に何もないまま別れたが、寒いからマフラーが欲しいと言ったら垣根は少し影のある笑みで了承した。




数日間、垣根と一方通行は何の連絡も取らなかった。それなのにいきなり携帯電話が着信を知らせたと思うと『今から会えないか』という垣根の声がした。高揚する気分を必死で抑えつけながら、できるだけ無関心を装った声で待ち合わせ場所を決めた。通話が切れた後に一方通行が微笑んでいたことは言うまでもない。


「お、一方通行っ!」
「…先に来てたのかよ……」
先に来て待ってるつもりだった一方通行は何気にショックだったわけだが、そんなことは口が裂けても言う気はない。しかもTシャツにジャンバーだけで来たのは失敗だったと後悔しながら、ポケットの中に手を突っ込んでいる。その様子を見た垣根は持参していた袋の中を探った。

「ほら、これやるよ」

すると自分より少し低い一方通行の首にマフラーを巻きつける。白と灰色のチェックで少し長めの、それでも2人で使うには絶対に短いようなマフラーだった。それで口までを隠して嬉しいはずなのにお礼も言わずに、ただ垣根を見つめる一方通行。少しして溜め息が白くなって吐き出された。


「けっこう暖かいだろ?」
「…ン、まァな」
「………あの、さ」


目を細めた垣根が一拍置いてから一方通行に告げた。




「別れねぇか?」




今まで無表情だった一方通行の瞳が驚愕に揺れる。唇が震えて何かを紡ごうとしているのは分かるが音として伝えられない。言いたいことは山ほどあるのにどんな言い方をすればいいのかが浮かんで来なかった。


「お前、俺といても楽しくねぇみたいだし…」

(そんなふうに思ったことなんかねェよ)

「迷惑かけすぎだろ」

(勝手に思い込ンでンじゃねェ)

「だから、別れよう」

「…分かった」


死のうかとすら思った。分かれたくなんかないのに、雰囲気に流されて言いたいことも言えない自分が惨めで仕方なかった。
「じゃあな」
そのまま垣根は一方通行に背中を向けて歩き出してしまう。止まらないで、振り返らないで、いつも通りに。角を曲がって見えなくなると一方通行も逆方向に歩き出した。泣きそうになったけど、人目も気になるし情けなくなるし奥歯を噛んで歩いた。

「寒ィ…」


そう呟いた一方通行の声はマフラー越しにくぐもって雑踏に消えていった。




20111226MON


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テーマ「人外ファンタジー」
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