木一、一通さんが豆腐メンタル
限りある道(古語の慣用句)=死、死への旅路



















木原は暇さえあれば一方通行に言う言葉がある。




「さっさと死ね」




こんな台詞は色んな相手から腐るほど言われてきたが、ある意味親代わりになっている木原に言われるとショックを受けてしまう。絶対に顔には出さないが。それなのに仕事に行く前には必ずと言っていい程キスはされるし、夜だって悪態を付きながらも身体を気遣ってくれているのが分かる。そんなことが積もり積もって一方通行の中に不安が募っていくのにあまり時間はかからなかった。
「お前が死ねよ…」
「なんだ、元気ねぇな?」
「………」
誰のせいだと思ってンだ、と。心の中で呟いたがそれ以上は言い返すことができずに少しだけ俯いた。そんな一方通行を純粋に心配して木原は顔を覗き込むが、目を合わせてくれない。こんな表情はちゃんと子供のようで、それが木原のことを安心も心配もさせる。
「何すねてんだよ」
「お前が…」
言いかけた口を閉じてやっと木原と目を合わせる一方通行。ほんのり頬を染めて見ようによっては瞳も潤んでいるような気がする。


「死ね…って…」


木原は目を見開いた。あんなに暗い闇の底に長いこといた一方通行がたった一言『死ね』と言われただけでこの反応。自分に言われたからなのだろうか、と木原は少し罪悪感のようなものを感じながらも意志は変えようとしない。


「じゃあ、俺が先に死ぬか?」
「え…や、違っ…」
「俺が死んだらお前どうすんだ?どこ行くんだ?独りで、生きてくのか?」


だから、お前が先に死ね、と――木原は真顔でそう言い放った。すると今まで不安に揺らいでいた赤い瞳から大粒の涙が零れ始めた。喉に何かを詰まらせたように言葉が上手く出ないらしく、肩を震わせて嗚咽を繰り返しながら両手を握りしめて、それでも視線はそらすことはない。耐えられなくなったかのように一方通行は白衣の襟を掴んで木原にもたれかかる。


「テメェ…何、で……死ぬ…とか、言うンだ…」
「泣くなよな…」


珍しく困った様子の木原をよそに子供のような嗚咽は止まらない。一方通行の白い髪や細い背中を撫でてもそれは変わらなかった。しばらく無言のまま時間が過ぎてベッドに横にさせるとあっと言う間に寝息が聞こえ始めたので、木原はやっぱりガキはガキだと小さく微笑んだのだった。




「…チッ、胸くそ悪い」




それを思い出した数日後、一方通行の手によって木原数多は死んだ。




20111227MON


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