「そういえば、一方通行と初めて会ったのって……」
上条は苦々しい口調で言って俯いた。言いたくないなら黙っていればいいのに、と一方通行は頬杖を付きながら思ったが、少しだけ問い詰めてみることにする。
「すげェ痛かったなァ…」
「ご!ごめんって!!」
本当に焦っている上条を見ていたら不思議と笑みが零れる。実験のことについては仕方ないと割り切っているので、特に言及する気はない。それよりもその後の話をしたい。上条が一体どれくらい傷ついて、何と戦ってきたのか、聞きたい。もっと、知りたい。
「んー…海外ならアビニョンとかロンドンに行ったかな」
(アビニョン…)
「あとは…ロシアではお前にも会ったし」
こいつが差し伸べる手はグローバルに活躍中らしい、自分が助けられたことなんか小さなことなのかもしれないと思ってしまうほどに。それでも、一生忘れてやる気はないが。
「一方通行は?どうだったんだよ」
最低な記憶が蘇る。血肉の色と路地裏の雰囲気が今でも脳裏にこびり付いて剥がれなかった。
「…いつも通り、だった」
「そっか、やっぱいつも通りがいいよな」
2人の言う『いつも通り』に差があることは一方通行にしか分からない。上条が過ごす日常が平和であることの証拠なのだが、何か胸にわだかまるものがあった。
「今日もいつも通りだしな、久々に幸せだ」
上条はへらへらと笑った。その向かいで一方通行は少しだけ泣きそうになった。こんなに平和な日々に自分がいていいのだろうか。いていいのだ、と。上条は何気ない言葉でそう言った。明日からは平和な日々が続けばいいのに――柄にもないことを思ってしまう。


振り返ってみた


(これまでは、でもこれからは、)


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