木一、同居してます
3万打リクエストその5
匿名希望様からほのぼの木一



















「いい加減起きろ」
「ン…」
「起きろっつってんだろ」
「…むゥ……」


かわいこぶるな、と、言いながら木原はカーテンと窓を開け放った。部屋の中に朝日が入ってきて一方通行が寝返りを打つ。冬も終わったというのにまだ肌寒い外気が頬を撫でたので、身体を丸くして毛布をかぶりなおした。しかし、木原にそれを奪われる。起き上がり目をこすっても、なかなか意識が覚醒しない。
仕方ないので木原が手を引きながらリビングに出て行くと既に朝食が並んでいた。眠気覚ましのためにコーヒーを口に含んで、テレビに目を向ける。今日もお偉い方々がいがみ合いの討論会をしているらしい。いい加減にしろとも思わないでもないが、今はそれより大事なことがある。


「俺のトースト…」


これは死活問題だ。木原の目の前にはコーヒーとトーストが並んでいるのに対して、一方通行の前にはコーヒーと平たい皿しかない。その上にあるべきものはどこに行った。
「1枚しかなかった」
何を平然と言っているんだ、と一方通行は眉間に皺を寄せる。にも関わらずトーストは少しずつ木原の口の中に消えていった。どちらも口を開かないまま、テレビの向こうでアナウンサーが今日の天気を伝えている。
「そんなに落ち込むなよ。ほれ、一方通行ちゃーん?」
「誰がっ――ン、ぐっ…!」
直後、一方通行の口に食べかけのトーストが突っ込まれた。一口かじって皿に乗せると、木原がニヤけているのが見える。
「ほんと面白いよな、お前」
木原はコーヒーカップを持って台所に向かう途中、一方通行のに前髪をかきあげて行く。白い髪は重力に従ってふわりとやわらかな動きで、また違った白の肌を隠した。一方通行はトーストをもう一口かじりながら呟いた。


「ガキ扱いしやがって…」


木原には届かなかったらしく返事はない。それに苛立った一方通行は大口でトーストを食べきり、珍しくコーヒーもいっきに飲みきり、テレビに目を向けてみた。アナウンサーの横でゲストが簡単で安い朝食の作り方を紹介しているようだ。
『――これでイタリア風シーフードやきそばの完成です!』
なんだそりゃ、と顔をしかめると台所から出てきた木原が何気なく話し始める。

「材料あるけど、作るか?今日は暇だしな」
「お前が作れ、俺が喰う」
「よし、一緒に作るぞー」
「聞いてンのか、クソボケ」

冗談だよ、と言いながら木原は木製のイスに腰を下ろした。黙っていれば悪くない顔なのだろう、一方通行はそこまで考えて自分もそうなのに人のことは言えないと思い直す。自覚があるということは、それだけでたちが悪い。しかし、だからと言って一方通行は顔だけを売って誰かに好かれようなどとは考えなかった。そんなことをしても意味がないことは理解している。

「なに、ぼーっとしてんだよ」

別に、そう言ってやれば良かったはずなのに言葉が出てこなかった。
「トースト不味かったか?」
「…別に」
今度は言えた。なんてことはない言葉だが、なんとなく満たされた気がした。そして、コーヒーに口を付ける。
「コーヒー…」
「さっきお前が飲んだだろ、缶コーヒーもねえからな」
「チッ…」
舌打ちをしつつも一方通行はマグカップを持って台所に向かう。その手に自分のものと、木原のもを持って。ケトルに水を注いでガスコンロに火を付ける。時計を確認すると10時を過ぎた頃だった。何もすることない暇な午前中、きっと午後もこの調子なのだろう。
「一方通行ーまだかー!」
(まだに決まってンだろ、馬鹿か…)
心の中だけで返事をして壁に背中を預ける。
沸騰するまでにどれくらにの時間がかかるのだろう。
それまでの暇な時間は何をしよう。
それから、


(コーヒー持ってたら何の話すっかなァ…)


まるでこの部屋の中だけ世界から切り取られたように暇だった。
そんな時間をたった2人で過ごす。




20120521MON


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