上一、盛大な捏造注意
原作1巻より前のおはなし



















コンビニで缶コーヒーを大量に買って店を後にする。少し歩いたら3人の不良に囲まれる。毎日毎日飽きないなと口の中で毒づいて億劫そうに顔を上げる。ここまではいつも通り。ただ、いつもと違ったのは不良の間から見える人影がこちらを向いて目が合ったことだ。なんとなく上げた自分の目線と相手が向ける同情にも似た目線がぶつかっただけのこと。だが、その相手は顔色を変えてこちらに駆け寄ってきた。
(こいつらの仲間…?出遅れたとなりゃ、本当の馬鹿だな)
一方通行はベクトルの計算式をもはや無意識で組み立てながら向かってくる少年に目をやった。まとめて薙ぎ払おうてしていたが、予想外の事態が起こる。少年が不良と一方通行の間に割って入ったのだ。その場にいる人間がそろって頭の上にクエスチョンマークを浮かべている中、叫び声が響く。
「お前ら、こんな華奢な子に寄ってたかって…恥ずかしくねぇのかよ!!」
(…子?年下にでも思われたのか?)
しかし、一方通行にとってもっと頭に響いたのは違う言葉だ。

『華奢』

確かに、少なからず自覚はあった。だが、自分で思うより他人に言われることがこんなに甚大なダメージを与えるとは思いもしなかった。そもそも学園都市にそんなことを言う者などいないのだ。第一位の超能力者に華奢だのなんだのいう命知らずはいない。いないはずだ。一方通行を知らない人間がいるとしたら、可能性もあるが。
(俺を知らない奴、か……いるのかもなァ…。自意識過剰になりすぎてたか…)
さっきの発言には目を瞑るとして、この状況をどう打開しようかと思考を再開する。見たところこの少年は自分を助けに来たつもりらしい。それを果たして不良と同じように路地裏のシミにしてしまっていいのか。一方通行が一瞬迷っている間に状況は一転した。


学生鞄を持っていないほうの少年の右手が一方通行の左手を掴んで走り出したのだ。


「…は?え、オイ…!?」
不良の間を裂いて一直線に走り出した少年に引きずられるように一方通行も走らされる。不良たちの怒声が後ろのほうから聞こえてくる。どうやら追いかけてきているらしい。しかし、しばらく走っていたら諦めたらしく、静かな街の隅で2人が荒い息を整える音がやけに大きく聞こえた。
「わ…悪いな、3人もいたし、逃げるしかなくってさ…」
そんなことは一方通行にとってどうでも良かった。久々に能力を使用しないで全力疾走をしたから身体が酸素を欲していたのだ。徐々に呼吸が整ってきて、一方通行はようやく気が付く。


(どォして能力が使えなかったンだ…?)


ゆっくりとした挙動で少年の顔を覗き込むと苦笑いを浮かべていた。考えられるのは、この少年が自分の能力に何らかのの形で干渉したこと。でも、一方通行はそんな能力に心当たりなどなかった。無理もない。幻想殺しなどという奇妙な力など知っているはずがないのだから。少年は一方通行の視線に気付いて目を合わせ話しかける。




「ほんと悪いなぁ…こんな可愛い子にダッシュなんかさせちまって…」




頭を思いっきり殴られた錯覚さえした。何を言っているんだ、こいつは?馬鹿か、馬鹿なのか、馬鹿なンだよな?と、まとまりのない言葉が一方通行の後頭部にチリチリと鈍い痛みを与え続ける。怒りすらも消えた表情はまさに唖然そのものだった。
「だけど、もうちょっと可愛らしい格好とか――」
「ふざけてンのか、誰が女の子に見えるンですかァ?」
「!?」
眉間に皺を寄せて睨みつける紅い視線。細い喉から発せられる低い声。そして、だめ押しの舌打ち。その場の空気が凍りついた。しばらくすると、はっとした少年があぁだ、こうだと質問してくる。

え、男の子なんですか?
じゃあ、どうして囲まれてたの?
能力者だったって!?

騒がしい奴だと思いながら一方通行はひとつひとつ質問に回答していく。そのせいで、なぜ能力が使えなくなったかを考えることも忘れていた。

「…本当に男?ドッキリとかじゃなくて?」
「男だっつってンだろ、いい加減ぶっ潰すぞ」

これが上条当麻と一方通行の奇妙な出会いだった。




20111018THU


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -