随分と悪戯好きな魔女でした。誰に雇われた訳ではありませんが、裏社会で生きる人間を小突くのが趣味という危険極まりない魔女だったのです。不老不死、どんな怪我も治せるという訳ではありませんから時折怪我をすることはありました。しかしながら彼女は十分に強い魔女だったので大抵は問題ありませんでした。かくいうヴァリアーもその魔女の悪戯のターゲットにされてしまいます。幾度も幾度も魔女に任務の邪魔をされてを黙っている筈がありません。その魔女を燃やすべく、任務のターゲットの命を奪ったついでに、ついでというには些か凄惨な奪い方ですが、魔女の命も奪いました。

「でも、まさかベルちゃんが猫ちゃんにされちゃうなんて・・・」

にゃー!と不満げに猫が叫びます。ルッスーリアに抱かれた猫はじたばたと暴れますがその逞しい腕から抜け出す事は出来ません。
命を奪われる前に魔女はこういったのです。

『赤い瞳を持つお前、この少年を猫のまま死なせたくなかったらお前が想う女と結ばれてみろ!お前は恐れている、心を明かすのを恐れている悲しい男だ。お前と違って優しい私だ、一月以内に女から口づけをうけろ。さもなくばこの少年は私と同じように灰となる。あの世までティアラを持ってこい、馬鹿者』

魔女の苦し紛れの呪いでした。その場に残ったのは猫には大きすぎるティアラと、ティアラの中で可愛らしく鳴く猫でした。そして驚くことに、周囲の人間は誰もベルの言葉がわかりませんが、ザンザスだけがわかったのです。


「(ボス!ボス!俺死にたくないよ!)」

どうにかルッスーリアの腕から抜け出したベルはにゃあにゃあと鳴きながらザンザスの足元に縋りつきます。泣く子も黙る男の足元に猫が纏わりつくせいで、彼の恐ろしさも幾ばくか和らぎます。

「(あの子だってボスの事好きだって!)」

「・・・るせぇ・・・」

ザンザスは猫になってしまったベルの首根っこをつまんで、ルッスーリアの腕の中に乱暴に戻します。

「どうやったらこいつ元に戻るんだぁ?」

「知らねぇ」

「(ボス!!!)」

大きな声でベルは鳴きます。スクアーロは猫になったベルが面白いようでにやにやとしています。レヴィに至っては日ごろの不満でしょうか、嬉しそうな笑みを零します。ナイフの一つや二つ、投げたい所ですが猫になってしまった彼には叶いません。ただただ唸り声をあげるだけです。

ザンザスはため息をついてソファーに座り込み、額を押えるようにしてひじ掛けに肘を立てました。愛する女と結ばれなくてはならない、その言葉ばかりが嫌に脳内で木霊します。というのも、ザンザスはその魔女の言う通り好きな子がいるのです。
縮まりそうで縮まらない距離であるのをベルは気付いていました。今まで見てきた香水臭い女でもなければ、ザンザスのステータスを褌にとるような女でもなければ、ベル本人が嫌だ、と思わない女でした。なまえ、という名前の女です。
ボスの事だからすぐにアプローチでもするんだろう、と思っていましたがそうではありませんでした。どうにも、ザンザスは今までと毛色の違う女に恋をしてしまったようで、中々行動に移せなかったのです。勿論、理由はそれだけではないでしょう。どうやら、本当に好きなようなのです。

「(ボス、俺まだ死にたくないよ)」

「ベルちゃんよく喋るわねえ」

ルッスーリアが優し気にベルの頭を撫でます。がぶり、とルッスーリアの腕に噛みついてまた一たび彼の腕から逃げ出します。元々運動神経は良いので、猫の体を得た彼はさながら水を得た魚です。軽やかにザンザスの膝の上まで飛んでいき、にゃあにゃあと鳴き続けます。

「(お願い、人間に戻ったら何でもするから)」

ザンザスは大きなため息をつきます。確かに、猫のままでも十分困るのに彼に死なれてはヴァリアーの大事な戦力が欠けてしまいます。彼を生きさせるのが最善ですが、それにはなまえに恋心を伝えるばかりでなく両想いにならないといけないのです。
こんなに一人の女に悩んだことがないザンザスには難しい話でした。

まあ、ベルが猫になってしまったり、魔女に仕事の邪魔をされ続けた事でザンザスは随分と混乱はしていましたが。

「・・・クソ」

かくして、ベルの呪いを解くべく挑戦する日々が始まるのですがザンザスはなまえから口づけを受け取る事は出来るのでしょうか?



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