「まあ、ベルちゃん何見てるの?」

「なまえとボスの結婚式の写真」

談話室の大きなテレビに映し出されているのは亡きなまえの結婚式の写真であった。
彼女の愛する双子たちはレヴィに勉強を教わっており、談話室は静寂に包まれている。

「懐かしいわね」

「ほんとに。あっという間だよな〜」

ベルの目こそ見えないが、彼の麗しかろう瞳も涙で潤んだりするのだろうか。

『親族は兄以外呼ばない。友人も結構よ』

女の子ならだれもが夢を見るであろう結婚式になまえはやや冷静だった。
現代の海運王と呼ばれる父親の元に生まれるも、男ではないからと家族からは温かく迎えられていなかった。彼女がそれでも朗らかに育ったのは年の離れた兄の深い愛情と父親の会社で働く従業員たちの優しさ故だろう。『学校で得た賞状は真っ先に兄と従業員に見せてた』と生前語っていたくらいだ。

『ザンザスと結婚するのは嫌じゃなかったわ、家を出れるんだって嬉しかった。それに、私が結婚することで湾口の仕事も進むし従業員たちも守られる。この婚姻を反故にして親を苦しませるのも良かったわね。でも、従業員たちは悲しむし兄を苦しめてしまう。それだったら、私はいわゆる裏社会で生きていく方が皆の為になるとおもったの』

ベルはなまえの事をザンザスと婚姻する前から知っていた。一度だけ、パーティーで見かけたのだ。まだザンザスがクーデターを起こして氷漬けにされてしまう前、炎を大きく燃やすべく準備をしている時期だった。幼いベルにとってパーティーはつまらないもので、スクアーロの髪の毛を引っ張って遊ぶにはいささか場所が豪華すぎる。可愛い子ね、と頬に触れようとする女達は妙に香水臭い、とベルは忌み嫌った。でも、なまえだけはなんだか許せたのだ。遠巻きに目が合い、当時から髪の毛が長ったのではっきりと目が合った確信も得れないのになまえは堂々と近づいてきた。

『つまらないわね、パーティって。ポップコーン食べる?』

そう言って大広間が良く見えるテラスの椅子に腰かけ、2人はポップコーンを食べたのである。何かあればこんな女殺せる、とベルはなまえを警戒しつつもハイヒールを脱いでリラックスする彼女に親しみを感じた。そして、幼い心ながらにボスが結婚するならこの人が良い、と思ったのであった。

「ああ、綺麗だわ」

うっとりとルッスーリアは大画面に映るなまえの姿に見惚れている。ヴェールには刺繍がふんだんにあしらわれ、表情を捉えることは難しい。次の写真に切り替われば、ザンザスの赤い瞳がほんのりと色づき、ヴェールを取ったなまえはにっこりと笑顔をたたえていた。雪深い冬に煌々と輝く唯一の春の太陽のような温かさだ。
ザンザスを見つめる眼差しは愛で満ちていて、胸を手で押さえ溢れそうな喜びを噛み締めている写真もあった。

「・・・なまえ、綺麗だね」

「そりゃそうよ、私達の女王様なのよ」

「ボス、あんまり笑ってないけど嬉しそうじゃね」

ウェディングドレスを着ていてもじっとしていられないのはなまえらしい。大口を開けて笑う姿や、カップケーキにかぶりついて頬に着いたブルーベリージャムをザンザスが拭う写真もあった。

「幸福を運んでくれたわね、なまえは。
見てごらんなさいボスの目。こんなに暖かそうな目を向けてもらえたなんて、あのこ本当に愛されていたのよ」

ザンザスの瞳には怒りなどどこも浮かんでいない。なまえを見つめる瞳は優しい夕焼けの色をしていた。その夕焼け色に包み込まれるのは後にも先にも、なまえだけだろう。

「なまえともっと遊びたかったな。ボスにアグリーセーター着せてる写真、もっと撮りたかった」

「私もよ。もっとあの子に可愛いお洋服着せてあげたかったし、ボスとデートしてほしかったわ・・・」

結婚式であるのに黒い隊服で列席した幹部らの写真が映し出される。真ん中には彼らが愛するザンザスとその妻である、なまえがいた。フランのカエルが邪魔だったせいで取るだの取らないだの、と喧嘩をしているらしく落ち着かない写真が何枚も流れる。なまえは飽きてしまい、ザンザスに口づけをねだっている。そして、スクアーロがベルとフランに怒鳴り始めた頃、ザンザスはなまえに口づけをした。そのすぐ後ろでルッスーリアがハートを手で作ったのは2人の愛を現したかったからだ。

「やだ、私達らしい写真」

「スクアーロ先輩、まじで声でけぇわ」

無事に撮れた集合写真は、誰もが皆精悍な顔つきでありながらも、レヴィに至っては涙の跡が消えないが、一同にカメラをしっかりと見つめている。ザンザスとなまえだけはわずかに頭を寄せ合っていた。誰しもが2人の婚姻を祝っている事を示す写真だ。

「俺、ボスが再婚するって言ったら反対する気がする」

「おほほ、私もよ」




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